年間約1000名を超える社長と会い続けている杉浦佳浩氏が、さまざまな経営者・起業家にインタビューする「代表世話人(だてにはげて)の企業発掘」。第3回目の今回は、杉浦さん自身が行っている、離島での村おこしをビジネス誘致で実現しようとする活動を採り上げます。

経営者を連れて離島の訪問を実施

杉浦さんは既に、新潟県の佐渡島、東京都の八丈島、そして最近では鹿児島県の種子島に多くの経営者を連れて訪問しています。年間1000名を超える社長と会っている杉浦さんは、各地方の訪問も積極的に行っています。新潟県の佐渡島訪問も、最初は新潟県出身のIT社長らとともに新潟県を訪問したのですが、せっかく新潟まで行くなら、スタートアップ支援に熱心と聞く佐渡まで足を延ばすことにしたところ、懇意の経営者の紹介で、市会議員と繋がり、さらにそこから市長への面談と、たまたまが重なり実現することに。そこでの市長のプレゼンテーションを見てあまりの熱心さに、IT社長は佐渡島にサテライトオフィスを作ることにしました。従業員の多くは移住者で、佐渡島の雇用創出に大いに貢献することになりました。

八丈島も同様に、八丈島出身の社長から島への訪問を要請され、10社の経営者を連れて訪問したそうです。今回の2023年2月の種子島訪問では、26社の経営者が参加するなど、回を追うごとに参加者が増えています。これらの訪問は、旅費などすべて参加する企業持ちでやっているそうで、企業側の真剣な姿勢が分かります。

離島は日本の縮図

杉浦さんは、八丈島を訪問した際、懇意にしている八丈島出身の社長から、「離島は日本の縮図」ということが忘れられないと言います。日本では、少子高齢化、地方創生が早急に解決すべき課題となっていますが、離島は特にその問題が深刻です。基幹産業が農業に限られ、かつ就業者の高齢化が進んでいます。後継者がいないところも多くあり、農地の荒廃も深刻です。種子島の南にある南種子町でも、人工は60年で1/3になりました。こうした状況を打破するために、民間の力を使いたいというのが杉浦さんの基本原則です。

図表:南種子町の人口動態
出所:令和4年度南種子超農林水産業の概要

一方で、杉浦さんは「よそ者目線」が需要だ、とも言います。離島はどうしてもコミュニティに関して閉鎖性が強く、変化を嫌う風潮が強いそうです。そうした中にあって、島外から企業が進出し、移住が進むことで意識改革が起こり、活性化が進むことを期待しています。

現実には、訪問が実現する離島も、かなり行政が島おこしに積極的なところに限られており、まだまだすべての離島の心理的な受け入れ態勢が整っているわけではありません。成功事例が積みあがることで、他の離島も門戸開放に舵を切ってほしいというのが杉浦さんの想いです。

有機農業や観光でのビジネス検討が始まる

種子島への訪問団に加わった26社の内訳は、農業、建設業、旅行業、不動産業、コンサルティング業と多岐にわたります。町三役などとの打ち合わせでは、各種島内産業の現状、教育の現状、補助金制度の内容などの説明を受けた後、Q&Aとなり、予定の1時間半を大幅に超える盛況ぶりだったそうです。訪問は2日がかりで行われ、2日目にはビジネスマッチングで町の担当者との個別協議の場も設けられました。

南種子町でのミーティングの様子

今回の種子島訪問で、企業側の関心が高かったのが有機農業です。訪問した企業のうち3社が、消費者の動向や農産物加工品の状況について、担当部署と活発な意見交換が行われました。

また、観光に関しても活発な議論が行われたそうです。種子島には、種子島宇宙センターという最先端の設備と、日本に初めて鉄砲が伝来した土地という歴史的遺跡という新旧の観光施設が存在します。こうした点を活かして、海外大学生のゼミ合宿を提案した企業があったそうです。

このように、今まで自治体からの情報発信が埋没していた離島に、実際に企業を連れ込むことで理解が深まり実際のビジネスに向けた商談が始まったという意義は大きいと言えます。

【経営者のメリット
あまり知られていない有人国境離党法による特定有人国境離島地域社会維持推進交付金事業の対象に

瀬戸内海の島などを除き、有人の離島は基本的に有人国境離島法における特定有人国境離島に該当します。この結果、特定有人国境離島地域社会維持推進交付金事業の対象になるのです。

中でも経営者にとって魅力的なのは、雇用拡充を目的とした補助金です。この補助金は、創業支援で最大600万円、事業拡大支援で最大1600万円と金額が大きい上、事業者の負担は1/4にとどまっています。

図表:特定有人国境離島地域社会維持推進交付金事業(雇用拡充)の概要
出所:内閣府総合海洋政策推進事務局有人国境離島政策推進室資料

働き方改革が叫ばれる中、自然豊かな地方でゆっくり仕事がしたい従業員、また新型コロナウィルス感染拡大以降定着したリモート勤務を地方から実現したいと考える従業員などにはうってつけの勤務環境と言えます。こうした地域に拠点を構えるのに手厚い補助金が見込めるとあれば、経営者としては誰しも検討することになるでしょう。

離島でのビジネスによる村おこしは経済的にも合理的なのです。今後、離島におけるこうしたビジネスマッチングを更に増やしていきたいと杉浦さんは次の仕掛けに余念がありません。

この記事を書いた人

杉浦佳浩

大阪府出身、1963年生まれ。新卒で三洋証券株式会社に入社し営業として活動。その後、キーエンスを経て、住友海上へ(現:三井住友海上)。20年間多岐にわたり同社にて活動する。2015年独立し、代表世話人株式会社を設立。現在数十社を超える会社において顧問として、世話人役を務める。紹介のみで、年間約1000名を超える社長と会い続けている。りそな銀行(りそなCollaborare)にて執筆中。