年間約1000名を超える社長と会い続けている杉浦佳浩氏が、さまざまな経営者・起業家にインタビューする「代表世話人(だてにはげて)の企業発掘」。第2回目の今回は、空き家活用株式会社の代表取締役CEO和田貴充さんに話を聞きました。

増え続ける地方の空き家。どうする?

国土交通省が9月21日に発表した7月1日時点の基準地価は、全国平均で3年振りに上昇しました。特に住宅地はバブル期の1991年以来、31年ぶりに上昇したというニュースが流れたことをご記憶の方も多いと思います。ただ、注意しなければならないのは、この上昇を支えたのは、「札仙広福」とよばれる札幌、仙台、広島、福岡の4都市とその周辺を筆頭とする、地方の中核都市だけだということです。人口減少に悩むその他の地方では引き続き不動産価格は低迷しているのです。

更に、地方の不動産を見る場合、深刻なのは多くの地方の不動産が「空き家」になっており、取引の対象から外れていることなのです。総務省のデータによれば、平成30年(2018年)時点で全国6240万戸の住宅のうち、約14%にあたる849万戸が空き家となっています。その中で都市部を中心に500万戸は流通中ですが、残る349万戸は未流通、すなわち活用が放棄された住宅なのです。

図表:空き家の現在
出所:平成30年度住宅・土地統計調査を基に、空き家活用株式会社作成

深刻さを増す空き家問題

2018年に849万戸だった空き家は、2030年には2000万戸にまで増加すると試算されています。日本の住宅の実に3分の1が空き家になる計算です。その中で流通中の戸数は500万戸からそうは増えないでしょうから、残りの1500万戸、全住宅の約4分の1が活用されない状況になるのです。こうした空き家は、防災・衛生、景観や治安維持の観点から問題が深刻であるにもかかわらず、抜本的な対策が取られてきませんでした。

なぜ空き家問題の解決が難しいかというと、所有者の活用意識の低さ、需給のミスマッチ、公的機関の支援の難しさ、の3点が原因として挙げられると思います。

  1. 所有者の活用意識の低さ
    地方の場合、所有者は別に居住地を持っていることが殆どで、その物件を活用しなければならない必要性が殆どありません。売却を試みてもその見積価格に失望して積極的に売却をしようとは思わず、一方で築年数がかさんで評価額が低いと固定資産税も殆どかからない。つまり、空き家にしておくことが元も安い管理方法なのです。
  2. 需給のミスマッチ
    通常、不動産を売りたい、買いたいとなったときには、信頼できる地元の不動産業者に相談します。知元の不動産業者の場合、営業エリアが狭いのが一般的で、特に需要を見つけてくることは不得意です。もし見つかっていたら、とっくに売れているはずです。
  3. 公的機関の支援の難しさ
    空き家対策は、防災・衛生、景観や治安維持の観点から特に地方自治体における問題意識は相当高いものがあり、多くの自治体で空き家条例が制定されています。

政府もこの問題の重要性に鑑み、平成27年(2015年)には、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称、空き家特措法)が施行されました。この法律に基づき、以下の施策を行うことが可能となりました。

  • 空家等への立入調査
  • 所有者等を把握するための固定資産税情報の内部利用
  • 空家等及びその跡地の活用
  • 空家等対策の円滑な実施に要する費用補助、税制上の措置
  • 適切な管理のされていない空き家を「特定空家等」に指定
  • 特定空家等に対する除却、修繕、立ち木伐採措置への助言・指導・勧告・命令
  • 行政代執行による強制執行

ただ、実際には現在の所有者に徹底されておらず、行政側でも相当状態が悪くならないとこうした強制的な施策は取りにくいのが現状です。所有者の自発的な処分を促すための「空き家バンク」などを運営する自治体も多いのですが、情報提供が定型化されているものにとどまり、実際の引き合いにまで進む事例は稀だと言われています。ところが、和田さんがCEOを務める空き家活用株式会社には面白いように所有者から多くの引き合いがあり、また取引を実現しているのです。

空き家活用株式会社のユニークな取り組み

和田さんがCEOを務める空き家活用株式会社はなぜ地方の空き家の売買を実現できているのでしょうか?まず言えることは、和田さんが住宅の説明をする、所謂家レポの天才だということです。

一般的な図面、データ、写真を中心とする不動産の情報では、よっぽど欲しい人でもなければその情報だけでその物件をイメージすることは出来ません。そこで、和田さんは吉本興業の芸人顔負けの面白さ、分かりやすさで地方の物件を紹介していきます。そのレポートには、不動産仲介業者にありがちな、売らんがための営業トークは全くありません。視聴者と全く同じ視線で、驚き、感動し、また場合によっては必要なリフォームなどコストを正確に指摘します。こうした客観的な情報をストーリー性をもって説明してくれる不動産業者は今まで見たことがありません。この和田さんのトークが空き家活用株式会社の圧倒的な強みになっています。高知県の半島は、名古屋の事業者が保養施設として購入したそうですが、物件の情報がしっかり伝わらないとこれだけの遠隔地から買いに来ないですよね?

図表:高知県東洋町半島付き空き店舗(名古屋の事業者が保養施設として購入)
出所:YouTube:ええやん!空き家やんちゃんねる

もちろん、和田さんの個人的なスキルにおんぶにだっこというわけではありません。空き家活用株式会社の堅実なところは、地方自治体との連携に力を入れているところなのです。

物件を処分したいけれど、見込まれる売却価格が低い場合、所有者は自治体に相談を持ち掛けることが殆どです。ところが、今までの自治体の対応は空き家として放置することへのペナルティをちらつかせることで売却を迫ることはあっても、自らが売却をあっせんすることはしませんでした。そこで、空き家活用株式会社が始めたのが、「アキカツ自治体サポート」です。

このサービスは、空き家調査のDX化を図る「アキカツ調査CLOUD」と、空き家の流通促進、所有者相談カウンターを行う「アキカツカウンター」からなります。

自治体は多くの調査員を抱えています。その調査能力を活かして、制度の高い空き家調査を行い、空き家データを管理共有できるのが「アキカツ調査CLOUD」です。調査員が簡単な操作で登録が出来、また空き家情報の管理・閲覧がしやすいよう工夫がされています。現在まで、既に16万件の調査実績があるそうです。

一方、「アキカツカウンター」の主体は民間業者(空き家活用株式会社)です。自主運営で相談窓口を実施、活用までのアドバイスをワンストップで行います。既に約250件の相談実績があり、活用に結びついた事例も数多くあります。

空き家活用のこれから

そうはいっても、和田さんによれば空き家活用のポイントは物件の痛みの少ない初期の段階での対応なのだそうです。放置が始まった初期の段階の所有者に以下にアプローチするかが課題なのです。こうしたアプローチのために、保険パッケージの提供、物件の見守りパッケージの提供を、自治体を通してアピールすることで空き家問題の解決を図ろうとする空き家活用株式会社の取り組みは、SDGsの観点からも高く評価されると思います。

図表:空き家問題のボトルネック
出所:空き家活用株式会社作成

和田貴充さんのご紹介

2010年に、新築戸建分譲、株式会社オールピースを設立。

2015年に、経営者仲間と長崎県の軍艦島へ行った際、ひとりの経営者に「君たちの業界(不動産・建築業界)が日本中に軍艦島をつくろうとしている自覚はあるか?」と思いもよらない言葉をかけられ、衝撃を受ける。

みらいの日本を、この軍艦島のようにしてはいけない!その思いから、空き家活用株式会社を設立。 自社で空き家調査を行い16万件のデータを収集。そのノウハウを活かし、自治体サポートサービスを開始。自治体が自ら空き家を調査し閲覧・管理ができるアプリケーション「アキカツ調査クラウド」を提供。「アキカツカウンター」では、空き家所有者のよろず相談に乗り、活用希望者へと繋げる。YouTube「ええやん!空き家やんちゃんねる」では空き家情報を発信し利活用希望者とマッチングを実現。7ヶ月で登録者27,000人超え、総動画再生回数300万回を突破!

この記事を書いた人

杉浦佳浩

大阪府出身、1963年生まれ。新卒で三洋証券株式会社に入社し営業として活動。その後、キーエンスを経て、住友海上へ(現:三井住友海上)。20年間多岐にわたり同社にて活動する。2015年独立し、代表世話人株式会社を設立。現在数十社を超える会社において顧問として、世話人役を務める。紹介のみで、年間約1000名を超える社長と会い続けている。りそな銀行(りそなCollaborare)にて執筆中。