円安が止まりません。9月の日銀金融政策が終わったその日、ドル円相場は146円目前まで上昇。政府・日銀はこの日の夕方、約24年ぶりに円買い・ドル売り介入を実施し、円安をけん制しました。米国も容認したとされるこの介入で、円安は一服するのでしょうか。今回は、この円安のゆくえを考えます。

■為替介入の仕組みとは

まず、為替介入(正式名称:外国為替平衡操作)とは、相場の急激な変動を抑えて、安定化させるために行われます。この介入がメディアなどで報じられる際には必ず「政府・日銀は~」と書かれますが、実行の権限を持つのは「財務大臣」であり、日銀は、その財務大臣の指示通りに、介入の実務を代行しています。

介入を行う資金も、もちろん財務省から出されます。今回のドル売り・円買い介入の場合、代理人である日銀がまず、財務省所管の「外国為替資金特別会計(外為特会)」が保有しているドル資金を直接、民間銀行に売り、円を買う、という為替取引を行います。

同時に民間銀行は、日銀から買ったドルを為替市場で売り、日銀に売る円を同じく為替市場で買うため、ドル円相場は円高・ドル安に振れやすくなる、といった仕組みです。

■円買い介入は効果がない?

専門家たちは、「為替介入は効果がない」と口をそろえて言いますが、本当はどうなのでしょうか。過去を振り返ってみましょう。

1991年以降、政府・日銀が対ドルの単独介入(日本が単独で介入すること)を行った「月」、65ヵ月のうち、介入当月の為替レートが狙い通りに反転したのは、たった18ヵ月にとどまります。

その一方で、同じく1991年以降で、米国やG7各国の協力を得た協調介入を行った4ヵ月のうち、当局の狙い通りに反転したのは3ヵ月。さらに、1995年と1998年の協調介入の後はほどなくして、ドル円のトレンドが大きな転換点を迎えています。

このことからも、協調介入には一定の効果がみられるものの、政府・日銀が単独で行う介入には、専門家たちの指摘通りに効果がないと言えそうです。

■円安のメリット、デメリットを改めて確認

介入も効果が薄いのであれば、このまま円安が続く可能性が高まります。改めて、日本経済に及ぼす影響をメリット、デメリットに分けてまとめました。

[メリット]

・輸出企業の利益が増加する

・輸出企業の株価は上昇する可能性がある

・増加した利益を原資に値引きすれば、価格競争力が高まる

・また、その利益を設備投資や雇用強化に使うことで、今後の成長力が高まる

・インバウンド需要が盛り上がる

・外貨建て資産の価値が高まる

[デメリット]

・輸入額が増加する=所得流出

・輸入物価が上昇し、国内の物価高を引き起こす

・海外渡航の際の負担が増加

このようにメリットとデメリットを並べてみると、円安は、日本経済にとっていい面も多くあることがわかります。しかし、急激な金融引き締め策によって、世界が景気後退に陥れば、日本企業も円安のメリットを享受できなくなる恐れがあるのです。進行している円安が、いい円安なのか、悪い円安なのかは、世界各国の景気動向次第とも言えそうです。

■円安の本当のリスク「下落スパイラル」とは?

加えて、円相場に大きな影響を及ぼしているのが「資源高」です。

9月15日に発表された8月の貿易統計速報によりますと、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆8173億円の赤字となりました。資源価格の高騰と円安で輸入額が前年同月比49.9%増の10兆8792億円に膨らみ、赤字額は東日本大震災の影響が大きかった2014年1月を上回り、比較可能な1979年以降では単月ベースの過去最大。この貿易赤字はすでに13カ月続いており、2015年2月までの32カ月に次ぐ過去2番目の長さとなっています。

ドル建での取引が多い日本において、貿易赤字拡大はドルが不足し、円が余剰となることを意味しています。そのため、このまま資源高に歯止めがかからなければ、貿易赤字の拡大を通じて、円安がスパイラル化。円安が円安を呼び、1990年4月につけた160円台乗せもそう遠くないのかもしれません。

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この記事を書いた人

内田まさみ

1998年にラジオNIKKEIへ入社。『経済情報ネットワーク』、『東京株式実況中継』等の株式情報番組を担当し、その後はフリーに転身。現在はラジオNIKKEIや日経CNBCの番組パーソナリティを務めるほか、ライターとして複数のメディアに記事を執筆するなど、多方面で活躍中。2017年11月には、初の著書となる『FX億トレ! 7人の勝ち組トレーダーが考え方と手法を大公開』を刊行した。

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