「名ばかりESG投信」「形だけのESG企業」は、大問題!
ここ数年で、よく耳にするようになった「ESG」。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉であり、企業に対して利害関係を持つ株主や社員、顧客だけでなく、その企業を取り巻く地域社会も含めた多様なステークホルダーに配慮しながら、持続的な企業成長を達成しようという考え方です。
日本では、投資にESGの視点を組み入れることなどを原則として掲げる国連責任投資原則(PRI)に、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2015年に署名したことから、「ESG投資」が拡大。現在、脱炭素や循環型社会などに関連した銘柄を組み入れた投資信託などが多く運用されています。
しかし、4/24日付の日本経済新聞で、「金融庁が国内でESG関連の投資信託を提供する資産運用会社37社を調査したところ、約4割でESG担当の専門人材がいないことがわかった。ESGの観点をうたう投信が増えるなか、実態が伴わない商品も混在していることを金融庁は問題視しており、『名ばかりESG投信』への監視を強める」と報じられました。
これは、企業側から見ても同じで、ホームページや株主通信、統合報告書などでESGに関する取り組みを掲載していても、取材では大した情報を得られず、いわば、投資家うけを狙った「形だけのESG企業」なのではないかと感じてしまうことも多くあります。本当にそうなのでしょうか。
20世紀初頭の米国、英国でのキリスト教徒の活動に求められる。
ESG投資の起源は、1908年に米国のメソジスト監督教会(The Methodist Episcopal Church)にて、この教会の年金資産を運用・管理するために設立されたWespath Investment Managementが、聖書の倫理に基づいた社会的信条による資産運用を開始したことに遡ります。宗教的倫理観から生まれたことで、ESGは100年以上の長きに亘渡って資産運用の根底にあり続けている―――。これは、驚きでもあり、納得できる背景でもあります。
その後は、武器やギャンブル、たばこ、アルコールに関わる企業には投資しないという基準を明確にした世界初の公募SRI(社会的責任投資)ファンドが誕生。1930年代になると、スコットランド協会が欧州で初のSRIファンドの運用を開始するなど、欧州にもその考えが波及していきました。
1960年代になると株主の存在感はさらに増し、株主提案を通じて意見が企業活動にも大きな影響を与えるようになりました。実際に、黒人労働者の雇用条件を改善するよう求めた株主提案や、ベトナム戦争で使われたナパーム弾を製造していた会社に対して製造中止を求める株主提案が行われ、1990年代にはウォルマートに対し、投資家が労働条件の改善を要求したこともありました。
加えて、2000年代に起きた米国の多角的大企業エンロン社や大手電気通信事業者だったワールドコムの不正会計事件をきっかけにコーポレートガバナンス(企業統治)規制も強化。2006年に国連が、責任投資原則で「ESG」を考慮した投資行動を求めたことで、企業を含めた社会全体でのESGへの取り組みも本格化したのです。
欧米の流れに逆らっていた日本市場への失望が、株価下落の背景
その一方で、日本ではようやく株主総会での株主提案が認められたのは1981年のこと。株主の影響力は徐々に向上したものの、2007年に起きたブルドックソース事件では、同社に買収を仕掛けた米国の投資ファンド、スティール・パートナーズを、最高裁が「濫用的買収者」と認定し、ブルドックの買収防衛策は適法だと判断されました。
2008年10月に日経平均がバブル崩壊後の最安値6994.90円まで下落したのは、リーマン・ショックの影響もありましたが、それだけでなく、欧米で強まっていたコーポレートガバナンス重視の流れに逆らうような判決に失望した海外投資家が、多額の投資マネーを日本から引き上げたことも背景にあったのです。
株価低迷を打破するため、グローバル水準へガバナンスを強化
株価低迷を止めるため、コーポレートガバナンスをグローバル水準まで強化することが打ち出されたのは2013年。続けて2014年には、金融庁が機関投資家に対して、コーポレートガバナンス向上を目的とした行動規範「スチュワードシップ・コード」に沿った運用を要請し、翌2015年、今度は企業に対して、企業を監視する取締役会などついて記述した「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」を公表し、情報開示を充実させることや投資家との対話を求めるなど、矢継ぎ早に施策が打ち出されました。日本ではESG本格化からまだ10年も経っていないのです。
ESGが思想として根付いている欧米と、株価低迷を打破するためにESGを根付かせたい日本。ここには大きな隔たりがあるようにも思えますが、私はそうは思いません。それは、日本にも昔から伝わる「三方よし」の考え方があるからです。「売り手によし」「買い手によし」「世間によし」と呼ばれる「三方よし」は、江戸時代から近江商人が実践していた経営理念であり、社員や顧客など多様なステークホルダーを大切にして社会とともに持続的な成長を目指すESGと、親和性があるように感じます。
実は、ESGが根付いていないのではなく、発信下手。これが、日本企業が海外の投資マネーを呼び込めない要因のひとつなのではないでしょうか。