IFAに求められる能力-顧客ニーズを嗅ぎ分け そのニーズに最適な提案を行い 実行できる専門家集団を活用すること

日本では、2004年の法令改正により証券(金融商品)仲介業が制度化されてIFAが誕生しましたが、米国ではすでに1970年代ごろから、金融商品の販売に伴ってコミッションを受け取る独立ブローカー・ディーラー(IBD)、顧客の預かり資産残高に応じてフィーを受け取る登録投資アドバイザー(RIA)の2業態が生まれ、それぞれ発展を続けてきました。また富裕層向けの営業も日本のはるかに先を走っています。

今回は、1980年にメリルリンチに入社し、当時の米国の富裕層営業やIFAの創成期を目の当たりにしてきた、現(一社)日本IFA協会理事長の正木彰夫さんに当時の話を聞いてきました。

メリルリンチへ入社した経緯を教えていただけますか?

1980年当時、日本では大手証券会社から地場証券まで、まったく金太郎飴のような個人営業が行われていました。会社が推奨する株をいくら売ってくるかが評価される、しかもその推奨株の多くは主幹事証券として自社が引き受けたものを売るわけなので、ただでさえ分が悪い。こうした証券業界にあって、外資であるメリルリンチが米国型のしがらみのない営業を展開すると聞いて迷わず応募しました。

でもメリルリンチは1998年に山一証券を買収したんですよね?

この時はなかなか大変でした。大量の、しかも米国流の営業スタイルを知らない人が過半を占めたわけですから。時間もかかりましたし、お金もかかりましたが、時間をかけてメリルリンチの営業方針に変えていきました。

1980年代の米国富裕層営業はどんな感じでしたか?

印象に残っているのは、まず富裕層営業の社内におけるステイタスが高いことでした。NYのメリルリンチが入居していた高層ビルのうち、役員がいる3フロアのすぐ下が富裕層営業のフロアだったのです。見晴らしもよく素晴らしいところでした。

富裕層営業はいわば、メリルリンチと個別に契約する芸能人のようでした。営業担当者が、年度の予算を上司と話し合い、期末に成果を報告します。予算を達成できれば、一定割合をメリルリンチに収めれば残りはボーナスとしてチームに還元する。逆に達成できなければ会社を去るという厳しい面もありました。

営業担当者をサポートするジュニアの担当者などの採用権限は実質的にメイン営業担当者にあり、そのパフォーマンスもメイン営業担当者が評価します。チームの部屋も面積当たりの家賃が決められており、営業成績に従って広さが変わるのです。

当時から営業担当者には日本でいうところの定年がないのですが、引退することがあります。その際、面白かったのが、上司公認の下で、後継担当者の入札を行うのです。いい顧客に対し、引き継ぎたい担当者は高額の金額を現担当者に支払って顧客を買うのです。

顧客そのものが商品なんですね?

まさにその通りです。なので、営業担当者は顧客を心から大事にします。しっかり育て上げて、最後に高値で売るところまでがビジネスなのです。因みに、心に残った「最優秀IFAの一人は78歳の女性IFA」でしたが、彼女の「顧客資産承継者」は 彼女の仕事のアシストをしてくれた、アシスタントの女性でした。顧客重視の観点でお客様を一番理解し、ゴールへのベストな案内人(アドバイザー)は、アシスタントであるとの判断でした。

新人教育はどうなっていましたか?

新人は基本的に引継ぎがなく、コールドコールから顧客を見つけるところから始めます。当時1,000人程度を採用していましたが、6か月の研修、OJTを経て残るのは100~150人程度でした。

最初は当然断られ続けます。その中で運よく実績を上げた人を評価するのかと思ったら、違いました。会社は、効率的な営業を自ら開発できる才能を探していたのです。電話営業の時間組み、得意分野を作りながら顧客を紹介してもらうシステムの構築、などをきめ細かくチェックし、認められたものだけが残ることが出来るのです。経験則的に、こうしたことができる営業担当者は安定的な成績を上げられるのだそうです。

一度担当した顧客は、基本的にその会社を辞めるか、引退しない限りは変わることがありません。このため、基本的には長期的な視野に立った運用提案が出来る仕組みになっているのです。

どんな能力がIFAに求められていましたか?

メリルリンチの富裕層営業は当時世界トップクラスの実績を上げていたと思いますが、IFAとして大成したのには2つのタイプがいたように思います。

一つは、特定の金融商品を得意とする専門家セールスになるタイプです。金融機関の従業員ではなく、優良顧客を抱えて独立し、IFAの立場でより多くのペイバックを狙っていく野心的な人間たちで、今の日本のIFAと同じようなタイプと言えます。

もう一つは、特定の金融商品の専門家ではないが、何が重要かの鼻が利く人間味あふれるタイプです。こうした営業担当者は、がつがつした野心家ではありません。軍人や教員などを退職した人が多く、中には早期退職者も含まれていました。

このタイプの営業担当者は、顧客のライフサイクルや業界事情をきわめてよく把握しており、顧客の資産運用に実に的確なアドバイスが出来たのです。このタイプは必ずしも個別の金融商品の専門家ではありませんでした。ただ、一般的な金融知識は十分に持ち、重要なポイントをかぎ分ける嗅覚を持ち合わせていました。また、当時のメリルリンチは優秀なアナリストやマーケターが数多くいて、必要に応じて専門家から詳細な説明をさせる仲介を行っていました。

このタイプは今の日本のIFAには少ないように思います。ただ、IFAのすそ野が広がっていくためには、こうしたタイプの営業担当が増えることが重要だと考えています。

当時のIFAはどのような様子でしたか?

当時からIFAと呼ばれる独立系の営業担当者は存在しました。米国では大手企業の一部を除き、将来の年金などは若いうちから自分で貯めておかなければならないので、自然に業界OBの世話人が若い人間の金融のアドバイザーをやることになったのです。こうした世話人は金融商品だけでなく、ローンや人生設計など包括的な相談に乗るようになりました。また、業界OBとしての結びつきなので、顧客の利益を第一に考えるようになります。コンフリクトの問題は殆ど発生しませんでした。

コンプライアンスについて当時の経験から今の日本にアドバイスできることはありますか?

現在、コンプライアンスが声高に叫ばれていますが、当時は富裕層営業も、IFAも、自然な形で顧客第一主義が自分の利益に結びつくというビジネスモデルだったのでコンプライアンスが問題になるケースはまれでした。日本ではフィデューシャリー・デューティの重要性が繰り返されますが、渉外担当制など仕組としてコンフリクトが発生しない仕組みを考えることが重要だと思っています。

一般社団法人 日本IFA協会

一般社団法人 日本IFA協会では、IFA事業者を中心に金融市場関係者(上場企業・運用機関・メディア等)と協力し「TEAM IFA」を組織し、広く国民一般を対象にした資産形成・運用の啓発活動に資するため、上質な金融支援体制の構築を目指して活動してまいります。

理事長 正木 彰夫

この記事を書いた人

WMJ編集部

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