インフレ止まらず、世界は利上げ合戦に!

世界主要各国の中央銀行が急激な利上げに踏み切っています。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、6月14-15日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.75%の利上げを決定。1994年以来、28年ぶりとなる大幅利上げに踏み切りました。

また、メキシコ、韓国、フィリピン、マレーシアなどの中央銀行でも利上げを実施しているほか、欧州中央銀行(ECB)も、7月には11年ぶりの利上げに踏み切る方針を表明しています。特に金融市場を混乱させたのは、6月16日にスイス国立銀行が約15年ぶりに政策金利を0.5%引き上げ、マイナス0.25%としたこと。この16日にはスイス・フランが急騰し、日経平均先物も一時800円安まで下落しました。

インフレのスタートは、需要の高まりが原因だった

そもそもこのインフレは、新型コロナウイルスの感染拡大で抑圧されていた消費が動き出したころから本格化しました。感染の勢いが弱まるとともに、ワクチンが普及したことで経済が再始動。コロナ禍で主流となったオンラインショッピングに加えて、抑えられていた「人」と「モノ」が一気に動き出したことで、経済はものすごい勢いで浮上し始めたのです。

需要が供給能力を上回った結果、モノの値段が高くなり始めたのですが、この頃はまだ、供給能力が戻ればインフレは落ち着くといった分析が大半であり、FRBも「インフレは一時的」というセリフを繰り返すのみ。ただ、その状況を一変させたのは「供給」側の問題でした。

インフレの背景は、需要から供給へ。

その「供給」側の問題とは何でしょうか。まず、コロナ禍において、アジアから北米に向けたマスクなどの医療器具や巣ごもり消費向けの商品の輸出が急増したことでコンテナが不足したこと。港湾では荷揚げが滞り、コンテナを積んだままの船が港に何百隻も浮かんでいる状態が続きました。これは、中国のゼロコロナ政策の時も同様で、上海港に荷揚げを待つ船が多数浮かんでいたといいます。

需要が高まり続けていたその裏で、感染を恐れた人々は職場になかなか復帰せず、米国では多額の給付金を手にした人々の労働意欲が低下したままでした。その結果、様々な業種で人手不足が深刻化したのです。そして、東南アジアでのコロナ感染が長引いたことで、半導体やワイヤーハーネスなどの供給が滞り、未だ、自動車生産などに大きな影響を与えています。

このサプライチェーンの混乱に止めを刺したのがロシアによるウクライナ侵攻でした。「ウクライナ戦争」によって、原油価格は急騰。原油価格が上昇すれば、ガソリン価格はもちろん工場や店舗などの光熱費は上がり、モノを運ぶコストも高くなるなど、さらなる物価上昇の要因が立て続けに発生してきます。今回も、エネルギー価格の高騰が瞬く間に製品や食品などの価格に転嫁され、影響が広く深く波及しています。

そもそも金融引き締め政策は、盛り上がり過ぎた需要を人工的に抑え、需給のバランスを整えることでインフレを抑制する効果があるとされています。しかし、インフレの背景が「供給」側にあるのなら話は別。今回の場合は特に、ウクライナ戦争が終わったとしても、西側諸国がロシアへの制裁を緩めるとは考えにくく、原油価格を抑えるのはそう簡単ではありません。

今回のインフレに、利上げは効かない?

今回の状況に酷似していると言われる1970年代を振り返ってみましょう。

1973年に起きた「第一次オイルショック」では、「トイレットペーパー騒動」が勃発するなど、日本でも消費者物価指数が前年比で23%も跳ね上がりました。当時、緩和的な金融政策を行っていた米国のインフレ率も急上昇し、急激なインフレが起こりました。

そこで、1979年に当時のFRB議長だったポール・ボルカー氏は、徹底した金融引き締め政策に動きました。消費者物価指数が2ケタの上昇率を続ける中で急激な利上げを敢行したため、政策金利である短期金融市場のFF金利は1981年には20%の水準に急騰しました。

しかし、1980年に12%を超えていたインフレ率がようやく3%台に低下したのは、1983年になってから。強引な金融引き締め政策の副作用は強く、米国の失業率は悪化して激しい不況に陥ったのです。この1980年代に比べて現在の経済はグローバル化しており、インフレも地球規模で進んでいます。足元では、FRBが一気に100bp(1%)の利上げに踏み切るのではないかといった声も聞かれる中、我々は今後、強い金融引き締め政策による激しい相場変動と、厳しい景気後退を目の当たりにするかもしれません。

ただ、世界の中央銀行が引締めに動く中、日本銀行はスタンスを変えることなくマイナス金利を保ったままです。もちろん企業がさらなる値上げに踏み切ることも考えられますが、需要がそれほど高まっていない日本では、海外のような激しい値上げは難しく、物価上昇は小幅にとどまる可能性もあります。加えて、日銀の緩和政策維持により、深刻な景気後退を回避するだけでなく、逆に、進行している円安が日本企業の製造拠点の国内回帰、海外企業の工場を国内に呼び込むことで雇用も底堅く推移する―――。そんな想像は、楽観的過ぎるのでしょうか。

この記事を書いた人

内田まさみ

1998年にラジオNIKKEIへ入社。『経済情報ネットワーク』、『東京株式実況中継』等の株式情報番組を担当し、その後はフリーに転身。現在はラジオNIKKEIや日経CNBCの番組パーソナリティを務めるほか、ライターとして複数のメディアに記事を執筆するなど、多方面で活躍中。2017年11月には、初の著書となる『FX億トレ! 7人の勝ち組トレーダーが考え方と手法を大公開』を刊行した。

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