世界の富裕層投資家は何に投資しているのか?アジアを中心とした富裕層投資のハブとしてさまざまな商品や投資機会が集まっているシンガポールからまだ日本に紹介されておらず、欧米の富裕層投資家やソブリンウェルスファンド、大学基金や年金基金などが投資している戦略を紹介します。

15年以上前、スペインのマドリッド国際空港の免税店でインド人の旅行者がサントリーの山崎を買っていました。その頃から既に日本のウィスキーは海外で知られており、また、根強い愛好家が多いお酒です。

ワインへの投資は少し前から日本でも紹介されていますし、現在もシンガポールには、ウィスキーに投資するファンドもあります。先日、スコットランドのレアなシングル・モルト・ウィスキーを樽で投資するスキームについて紹介されました。詳細についてシニア・ポートフォリオ・マネージャーのジョシュア・ウィルソン氏に聞きました。 

運用会社:ブレイバーン・ウィスキー Braeburn Whisky  (Braeburnwhisky..com)

設立年:2017年

従業員数:35名

顧客数:2000名以上

管理しているウィスキー樽の数:3000樽以上

オフィス:イギリス、スペイン、シンガポール

社名「Braeburn」。その由来は?

ブレイバーン・ウィスキーは、何世代にもわたってスコットランドにいる創業者家族の名前に由来します。ブレイバーン家は長い歴史を持ち、今日に至るまで、家族経営でそれを誇りにしています。

ウィスキー樽の投資を始めたきっかけは?

私はフランスの投資銀行、ソシエテ・ジェネラルで3年間香港で働きました。滞在中に香港クリケット・クラブのラグビーチームでプレーしていました。香港を離れ、ヨーロッパに移って間もなく、ブレイバーンウィスキーのCEOと出会い、すでに日本のシングルモルトをこよなく愛していた私は、ブレイバーンファミリーに加わり、スコッチ・ウィスキー・ポートフォリオをお客様のために構築することに今は熱意を注力しています。

御社のサービスの概要を教えてください。

弊社は投資家向けに投資グレードのスコッチ・ウィスキー樽、これを「カスク(cask)」と呼びますが、これを販売することを専門としています。私たちはブローカーとして、投資家の皆様の投資目的に応じて適切なカスクをお探しし、様々な蒸留所、年代のカスクで構成される分散型ポートフォリオ構築のお手伝いをいたします。

また、スコットランドにはカスクを熟成させるための国認定の倉庫を保有しています。この倉庫は、マッカラン(Macallan)とグレンモーレンジィ(Glenmorangie)の両蒸留所で働いた経験のある専門のカスク・マネジメント・チームによって管理されています。倉庫は温度調節が可能で、カスクが最も安定した安全な環境で熟成できるようになっています。倉庫とその中のすべてのカスクには、常に損害保険がかけられており、ウィスキーの価値を守っています。

ウィスキーへの投資は儲かりますか?

2022年6月にサザビーズのオークションを通じて、55年物の山崎が60万ドルで落札されたことをご存じでしょうか。  かなり極端な話ですが、質の高いウィスキーに投資することは良い投資だと考えています。業界の専門家もそう考えています。世界最大級の小売業者である The Whisky Exchange によると、古いシングルモルトの価格は今後 5 年間で 3 倍になる可能性があるとのことです。

弊社では、データ分析により、運用中の全カスクの過去の成長率を追跡し、BC20指数(Braeburn Whisky and Cask 88 Cask index)と呼んで発表しています。2021年のウィスキー市場レポートの時点で、ウィスキーカスク市場全体は13.12%の成長を観測しています。

5年で3倍、魅力的です。

しかし、それは古いシングルモルトにのみ当てはまることです。すべてのウィスキーが同じ速度で熟成するわけではなく、また直線的でもありません。

たとえば、マッカランのシェリーオーク10年シングルモルトは1,159ドル(価格はすべてwine-searcher.comより、2022年10月25日現在)、25年ものは3,166ドル、30年ものは9,850ドルという価格です。10年物と30年物の価格差は8.5倍、つまり熟成期間が長いほど価値が高くなるのです。10年物と25年物の差は2.7倍しかありません。25歳と30歳では3倍以上です。

お酒の成熟度も重要ですが、希少性も重要です。ウィスキーは古ければ古いほど希少価値が高い。だから55年物の山崎は高値で取引されたわけです。ただ確かに最近、日本のウィスキーはちょっと値段が高いような気がします…。

かなりの上昇率ですね。念のため確認しますが、10年物のマッカランを20年持ったからと言って、30年物のマッカランになるわけではありませんよね?

そうなんです。そのボトルは、20年前にボトリングされた10年物のマッカランになります。それはそれでいいウィスキーですが、30年もののウィスキーではありません。 ウィスキーはワインと違い、瓶ではなく木樽の中でのみ熟成します。

リターンを得るためには樽に投資し、それをうまく保存する必要があるのですね?

はい、それこそが私たちが提供するサービスなのです。

ウィスキー樽投資を成功させる秘訣は何でしょうか?

歴史ある蒸溜所の樽に投資することで、高品質なウイスキーの豊かな歴史が保証されます。バーボン樽、ワイン樽、シェリー樽、ラム樽、テキーラ樽などの樽で原酒を熟成させることで、真にユニークなウィスキーに仕上げることができます。投資家は、世界中のどのウィスキーとも異なる、まったくユニークで個性的なウィスキーを造り出すことができるのです。また、樽の風味や色調は自然なプロセスで抽出されるため、まったく同じウィスキーは二度と作ることができません。カスクの投資家は、何世紀にもわたって続いてきたこの壮大な文化と伝統を未来に伝える伝道者となり、同時に存在しなかった新しいウイスキーを生み出すプロデューサーにもなるのです。

それはエキサイティングなことです。

各溜所はシングル・モルト・ウイスキーとして販売するものだけをつくっているのですか、それともブレンディングに使うのですか?

蒸溜所が生産するもののうち、シングル・モルト・ウィスキーになるのは10%程度で、さらにその一部がカスクの状態で投資家に販売されるだけなのです。そのため、これらのカスクの供給は稀であり、手に入れるのは難しいと言えます。

ウィスキー樽を買うのは簡単ですか?
今現在、すぐに買える樽は何樽くらいあるのでしょうか?

買うことはとても簡単です。投資家の皆様には、常に最新のカスク販売情報をご提供しています。通常、40から50種類のカスクに投資が可能です。年代やカスクの大きさ、蒸留所はさまざまです。しかし、需要の高いカスクは入手が難しく、当然ながら早く売れてしまいます。

ウイスキーの投資期間はどのくらいが適切でしょうか?

最低でも5年は投資したほうがいいと思います。ウイスキーは樽の中で大切に保管されれば、年月とともに熟成します。適切な熟成で熟成期間が長ければ長いほど、品質は高くなります。

すべての投資家が若いカスクに投資しているのですか?

いいえ、若いウィスキーに投資する投資家と古いウィスキーに投資する投資家がいます。例えば、25年物のカスクに投資して5年後に売却すれば、マッカランの例で説明したように、新品のカスクに投資して5年後に売却する場合よりも値上がりが早くなります。しかし、10年、20年という時間軸があれば、若い樽を買って待っていた方がずっと高く評価されます。

その10年から20年の間、あるいはどれだけ長くウィスキーを熟成させても、当社の倉庫管理チームが毎年ごく少量をサンプリングして提供するので、投資家は経過を見守ることができるのです。

長期投資のつもりが、急に予定より早く売却することになったと仮定して、樽は簡単に売却できるのでしょうか?未公開株に投資している時のように、ウィスキーの価値が大きく下がる、いわゆるJカーブ効果はあるのでしょうか?

私たちのプラットフォームを通じて投資していただければ、ワンクリックで樽を売却することができます。樽詰ウイスキーは時間の経過とともに価値が上がるため、一般的には1年後でも購入時よりも価値が上がります。絶対に損をしないという保証はありませんが、未公開株投資のようなJカーブ現象はありません。

弊社では、お客様ごとにポートフォリオマネージャーが指名され、売却だけでなく、新しいカスクの購入、管理、リバランスなどのサポートをいたします。お客様が保有されているカスクを熱望する他の買い手がいれば、お知らせし、売却して別の適切なカスクとリバランスするよう提案することもあります。

ところで樽の大きさはどのぐらいで、1つの樽から何本のボトルが作れるのでしょうか?

樽の最も標準的な大きさは、「ホグスヘッド(Hogshead)」と呼ばれるものです。225~250リットル、700mlのウイスキーを約320~355本に相当します。ウィスキーは毎年、蒸発により体積の1.5%~2%が失われますが、環境によってはそれ以下の場合もあれば、それ以上の場合もあります。

ホグスヘッド1樽の値段、また倉庫の保管料はどのくらいかかるのですか?

樽の値段は熟成年数と蒸溜所によって異なります。若いウィスキーの場合、最低で10,000ポンドから16,000ポンド程度です。有名な蒸溜所の熟成が進んだ良い樽は、1樽25万ポンド以上にもなります。約25倍の差があります。 保管料と保険料は1樽あたり年間65ポンド。樽の値段は関係ありません。

ウィスキー樽を所有するためには、多くの書類が必要なのでは?

私たちは投資家がカスクを安全に購入できるようなサービスを提供しており、一般的に必要とされる複雑な法的手続きは必要ありません。弊社にウイスキー・ポートフォリオの管理を依頼されたお客様は、HMRC、デリバーリー・オーダー、WOWGR、Duty Representatives、報告義務などの課題を弊社に任せながら、カスク所有のあらゆる利点を享受することができます。弊社のサービスを通じて投資家は売買プロセスの簡素化、ポートフォリオのモニタリング、カスクの保有状況の定期的なチェックが可能になります。

HMRC、デリバリー・オーダー、WOWGR。難しいそうな言葉ですね…

そうですね。一つずつ説明しましょう。

HMRCは最近までHer Majesty’s Revenue and Customsと呼ばれていましたが、チャールズ国王がの時代になったのでHis Majesty’s Revenue and Customsの略です。歳入税関庁のことです。

デリバリー・オーダー(D.O.)は、ウイスキー樽の所有権をある所有者から別の所有者に移すために倉庫管理者が署名する文書のことです。

最後に、WOWGR。WOWGRとは、Warehouse and Owners of Warehoused Goods Regulationsの略で、英国に居住する者が収益を上げる目的でウイスキー樽の所有権を合法的に取得できるようにするために必要な証明書です。

弊社のホームページをご覧いただければ、より詳しい情報をご覧いただけます。

でも、御社のサービスを通じて投資家がカスクに投資するのは簡単ですよね…。

弊社のポートフォリオ管理サービスでは、投資家が購入したウイスキー樽をBraeburn Whiskyの法人口座の一部として保管することで、これらの要件を回避することができます。この仕組みにより、Braeburn Whisky がお客様のカスクのカストディアンとして機能し、個人が WOWGR を申請する必要性を回避することができます。

英国以外の居住者は追加の書類作成が必要ですか?

Braeburn Whisky のポートフォリオ管理サービスでは、複雑で厳しい法的要件を回避するオプションを投資家に提供しています。このサービスでカスクを購入される場合、投資家は、追加的な書類提出を必要とすることなく、カスクの所有権を得られます。

投資家はどのようにウイスキー樽投資からエグジットするのですか?

カスク投資のエグジットとして最も一般的なのは、他の投資家または独立系ボトラーに樽を売却する方法です。先ほど申し上げたように、ワンクリックでそれを行うことができます。

すべてのウイスキーが蒸留所によってボトリングされているわけではありません。英国を始め世界中に、ウイスキーの樽を買ってすぐに自分のラベルで瓶詰めしたり、同じ樽でさらに熟成させたり、別の樽に移してさらに風味を高めたりする独立系ボトラーがたくさんいます。実は、私たち自身も独立系・ボトラーなのです。

ウイスキーのボトリングは、非常に複雑で時間のかかる作業です。1つの樽を瓶詰めするのに3〜6ヶ月かかることもあります。英国ではウイスキーに付加価値税と関税がかかり、政府は樽も所有しているかのように振る舞います。これは実質的には正しいのです。その結果、ウィスキー樽は英国政府が生産から瓶詰めまでの全工程を監督し、結果的にトレーサビリティが確保されています。このため、投資家の立場からすると、この資産の所有は非常に安全なものとなります。

投資家自身がウイスキーのボトリングを行うことは可能ですか?

可能です。私たちはそのサポートもします。

ただし、1つだけ注意点があります。投資家自身がウイスキーを瓶詰めする場合、付加価値税と関税の両方が投資家に課税されます。ちなみに樽のまま売却した場合には、英国のキャピタルゲイン課税は非課税扱いです。

樽を瓶詰めする場合、一部の例外を除き、ほとんどのウイスキー樽は蒸留所名を明記して瓶詰めすることが可能です。一部の蒸溜所は自社ブランドを非常に重視しており、自社ブランド名を使えなくしています。このような場合でも瓶詰めは可能ですが、たとえば「スペイサイド シングル モルト」「アイラ シングル モルト」など、原産地のみを表記し、蒸溜所名は書き込めません。

ユニークなエグジットはありますか?

思いつく限りでは3つあります。

蒸溜所は一定の間隔でウイスキーをリリースしています。たとえば冒頭で取り上げたマッカランは、12年、15年、18年、20年、25年、30年のボトルを販売しています。33年のような変則年のウィスキーを販売することで、プレミアムがつく限定版となります。それが1つの選択肢です。

もうひとつは、ホスピタリティ・ビジネスに携わる投資家が、自身のホテルやレストランでボトルを使用したり、あるいは顧客へのギフトにしたりすることです。このような投資家も見受けられます。

最後に、私が現在取り組んでいるのは、結婚式での利用です。ご両親が参列者にこの世界にひとつしかないウイスキーを贈りたいということで用意しています。それは間違いなく思い出に残る1本となるでしょう。

お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。今日はいい買い物をした気分です。

この分野への投資に興味があれば、ぜひご連絡ください!

この記事を書いた人

岩田雄

サウスカロライナ大学国際MBA、ウィーン経済経営大学国際MBA、修了。国際基督教大学卒業。

MBA終了後、東京でステート・ストリート信託銀行、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに勤務。ロンドンで日興アセット・マネジメント・ヨーロッパにて欧州/中近東のソブリンウェルスファンド、銀行、年金、保険会社、王族ファミリーオフィスなどに営業を行う。

その後、日興アセット・マネジメント・香港設立のため香港に転勤後、シンガポールの日興アセット・マネジメント・アジアに赴任。三井住友銀行シンガポール支店、J. Safra Sarasin銀行を経て2020年にコンサルティング会社をシンガポールで設立。

2023年4月にシンガポールのマルチファミリーオフィス、ファースト・エステート・キャピタル・マネジメント(First Estate Capital Management)の取締役兼ウェルスマネジメント部門のヘッドに就任。