ご自身の葬儀を想像したことはあるでしょうか? 葬儀は、最期の在り方が表現される場ですから、どのように送り出されたいかをご自身で考える、あるいはご家族と一緒に考える時間を生前につくっておくと良いかもしれません。現代は、葬られ方もさまざま。ご自身の想いはもちろん、ご家族の理解も大切です。葬儀の方法は、相続対策や資産承継と同様、まだ元気で健康なときにこそ検討しておくと良いでしょう。今回は、宇宙葬・宇宙生前葬のサービスを提供している、株式会社 SPACE NTKの代表取締役・葛西智子氏にお話を伺いました。

インタビュー:株式会社 SPACE NTK 代表取締役 葛西智子氏

(葬儀プランナー/トータルプロデューサー)

株式会社 SPACE NTK公式サイト

https://space-ntk.com/

インタビュアー:ライター 中島宏明

宇宙に還り、星になる「宇宙葬」

――本日はありがとうございます。「宇宙葬」はかなりユニークな事業ですが、どのような内容かぜひ教えてください。

葛西智子氏(以下、葛西氏):SPACE NTKでご提供している主なサービスは、「宇宙散骨」「宇宙遺骨旅行」「宇宙生前葬」「ペット宇宙葬」です。樹木葬や海洋散骨といった自然葬の一つとして、これからは「宇宙での葬儀」も選択肢に入れてみては?という新しいご提案をしています。

宇宙で葬儀をする「宇宙SOH(葬・想)」(以下「宇宙葬」)、ご遺骨を宇宙に打ち上げる「宇宙散骨」、ご遺骨が宇宙を旅して帰ってくる「宇宙遺骨旅行」、宇宙でお別れ会などをする「宇宙生前葬」、生前に髪の毛や爪を入れて自分のDNAを宇宙に打ち上げる「DNA生前葬」などの宇宙に関連したご葬儀や、宇宙に自分たちの夢や希望をつづったメッセージカードを送るサービスをご提供しています。

特にご好評をいただいているのが、気球型の宇宙船で行う「宇宙生前葬」です。生前葬はホテルなどで行うのが一般的ですが、それを宇宙空間で行います。2時間程かけてゆっくりと地上30㎞ほどの成層圏まで行き、しばらく過ごして降りてくる、計6時間の旅です。宇宙船から青い地球を見ることもできますから、壮大な景色の中で人生を振り返り、残された人生をどう生きるかなど、想いを巡らせていただく機会になればと思います。

宇宙船は8人乗りですので、例えば音楽が好きな人なら演奏家を乗せて生演奏を楽しむということもできますし、親しいご友人を招待することもできます。また、宇宙葬として行えば葬儀費用として計上することもできます。税金対策にもなりますから、富裕層の方にとっても魅力的ではないでしょうか。

他には、「宇宙散骨」も好評です。今までは小指ほどの量しか散骨することができなかったのですが、人一人分のご遺骨の散骨が可能になりました。粉状にしたご遺骨を専用のカプセルに納め、さらにそれを人工衛星に搭載してロケットに納めます。人だけでなく、ペットのご遺骨も可能です。ご遺骨の一部と、飼い主ご自身の髪の毛などを入れて、一緒に最期の宇宙を旅することもできます。ご遺骨はロケットに搭載されたまま地球の軌道を5、6年周回して星となって輝き続け、最終的には大気圏に突入して流れ星になります。

散骨というと法的な問題が気になる方もいるかと思いますが、宇宙ゴミにならないか専門家の方に確認したところ、スペースX社がずっと監視してるので該当しないということで、実現することができました。今後、法律が変わることはあるかもしれませんが2024年の現時点では問題がないことが確認できています。

――競合にあたるサービスはあるのでしょうか?

葛西氏:15年ほど前からアメリカにだけ宇宙散骨のサービスを提供している会社はあります。世界から集まった遺骨を打ち上げるのですが、お一人5~10gに限られます。弊社は量も約2kgまで対応しており、この分量まで行うのは世界初です。また、「宇宙に関わることはなんでも高価」と思われがちなのですが、DNA(髪の毛、爪)でしたら2万2000円で宇宙にお届けすることができます。

母との会話が「星になりたい」と思うきっかけに

――「人生で一度は宇宙に行ってみたい」という人は多いと思いますが、宇宙葬や宇宙生前葬という新しい形は、宇宙に行く良いきっかけになりそうですね。葛西さんは「亡くなったら星になりたい」という想いを持っていたとのことですが、なにがきっかけだったのでしょうか?

葛西氏:幼稚園の頃に日舞の稽古をしており、母と通っていました。その帰り道で橋を渡っている道中、夜空の星がとてもきれいで。「人は、亡くなったらどうなるんだろう?」と母と会話したのを覚えています。母は、「星になって輝きながら見守ってくれるのよ」と話してくれました。そのときの光景が今も脳裏に残っていて、宇宙葬につながっています。

その頃から「星になりたい」という想いを持ち続けているのですが、小学校2年生のときに宮城の祖母が亡くなり、葬儀の現実を見ました。骨壺を墓石に納め、蓋を閉めたら真っ暗な世界です。「星になって輝く」のとは真逆で、とても衝撃的でした。

小中高と仏教の学校だったので、授業で仏教のことを学ぶ機会があったのですが、その時点ではまだ葬儀のお仕事に就くことは想像もしていませんでした。その後、葬儀とはまったく関係のない仕事に就き、子育てで離職してしばらく経った頃に、たまたまセレモニーレディーの求人広告を見つけました。葬儀はお寺さんが絶対に絡んできますし、もしかしたら自分が学んだ仏教のことが役に立つかもしれないと思い、その求人に応募したんです。

アルバイトとして働き始めたのですが、宗派による作法の違い、お経の重要さ、お焼香のタイミング等、細かく覚えて対応しないといけないことがたくさんありました。そんな中で、私はすぐに対応できたんですね。それで、すぐに他のアルバイトの人たちに教える立場になって、それから社員になりました。

その会社では通常の葬儀の他に海洋葬にも対応しており、当初は1ヶ月に1~2件のお問い合わせだったのですが、段々と件数が増えていきました。その後、樹木葬などの多様な自然葬が出てくるようになり、「星になりたかった」という想いを思い出したんです。

葬儀業界を10年ほど経験した後、葬儀のプロデュース会社を設立しました。さまざまな葬儀の経験を重ねる中で、宇宙での葬儀に可能性を見出し、2017年に宇宙葬に特化した会社としてSPACE NTKを設立しました。

――宇宙葬を考えたとき、周りの方々の反応はいかがでしたか?

葛西氏:日本で宇宙関係の方にお話ししても、否定的な意見が多かったです。一方で、アメリカの宇宙関係の方はウェルカムでした。研究の領域から宇宙事業を検討する方は多くいらっしゃるのですが、宇宙葬というサービスから宇宙を見て事業を検討するのが「おもしろいね」と言ってもらえて。アメリカ大使館に呼んでいただいたり、大企業の方をご紹介いただいたりと、本当に人に恵まれていたということを感じています。私は行動すれば何とかなるもので、みんなが「無理」と言うことでも、道は拓けると信じています。宇宙葬を通じて、もっと日本の心やおもてなしを世界に発信していきたいと思っています。

今はまだ宇宙葬の認知度は低いのですが、どんどん普及活動をして、宇宙散骨や宇宙生前葬も当たり前に選択肢の一つとなる、そういう時代をつくっていきたいです。

お客様の声

――宇宙散骨はすでに行われたとのことですが、お客様からはどのような声をいただいていますか?

葛西氏:「ご生存中の奥様のDNAとご主人様のご遺骨をお預かりした方」もいらっしゃれば、「お子様のご遺骨と共にご家族のDNAをお預かりして、家族で宇宙旅行を楽しみたい」という方もいらっしゃいました。「一人じゃ寂しいから」と、愛犬のご遺骨と一緒に宇宙旅行した方もいらっしゃいます。

骨壺から専用のカプセルにご遺骨を移す際、ご自宅で私も立ち合うのですが、ご遺骨の部位のことなどをお伝えしながら移していきます。私は葬儀業界の経験もありますので、ご遺骨から生前のご病気のことなどもわかります。そのことを聞いていると、ご家族の方も一緒に移してくださるようになります。あるお客様は、娘様がお申し込みされ、奥様が側でご主人様のご遺骨を移すところを見ていらっしゃいました。私が、「一緒にお入れしますか?」と声を掛けたところ、奥様の髪の毛も一緒にカプセルにお入れしました。お聞きすると、病気で亡くなる10年前まで旅行にも行けていなかったそうで、最期に宇宙旅行を一緒に行けたとお喜びいただけました。

――それは、葬儀業界の経験をお持ちの葛西さんだからできる素敵なサービスですね。後編では、出展された国際宇宙産業展の様子についてもお聞きできればと思います。

(後編に続きます…)

この記事を書いた人

WMJ編集部

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