通貨は常に相対的な価格であることを忘れてはなりません。為替においては、金利、成長、インフレ、対外ポジションが全て相対的な考慮事項となります。しかし、ドルの準備通貨としての地位と、FEDが債券利回りに与える影響も考慮することが重要です。もちろん、現在の状況では、政府の債務対GDP比率が100%を超えているため、(潜在的な)財政支配の影響が重要な課題となっています。これは制約となり、Dave Dredgeが「大きなストップロスリスク」と呼ぶ状況を引き起こすかもしれません。

しばらく前から指摘しているように、マクロのレジリエンス(回復力)と新たなインフレのフェーズは、債券市場やレバレッジ資産にとって大変な状況となり得ます。例えば、オーストラリアでは過去数ヶ月間でコアインフレが4.4%に再加速しており、次にRBA(オーストラリア準備銀行)が政策金利を引き上げる可能性が高いことを示唆しています。この背景には、非常に低い①市場価格から逆算されるボラティリティ、②株式および信用リスクプレミアムがあります。

以前にも議論したように、流動性、ボラティリティ、およびレバレッジには密接な関係があります。エクスポージャーを管理するための「シャープレシオ」(またはバリューアットリスク)アプローチのパラドックスは、安定した期間が長く続くと、市場参加者が流動性が豊富なときにより多くのレバレッジを取るようになることです。その結果、参加者はコンベクシティをショートし、安定した期間の後に大きく不安定な市場局面を招くことになります。将来のリスクを知りたいのであれば、「レバレッジを追え」と言えます。

米ドルで発行される債務は他の通貨よりも多く、短期債務の40%、長期債務の50%を占めています。これはドルが世界の準備通貨として卓越している主な理由であり、FEDが無リスク金利と流動性を設定する中心的存在である理由でもあります。そのため、将来の米国の短期金利に関する市場コンセンサスと、それに対する資産のリスク補償を評価するのに多くの時間を費やしています。

戦術的には、米国の短期金利の経路の大幅な再評価が、特に低利回り通貨に対して米ドルの自己強化的な上昇を促しています。我々の視点から見ると、特に日本円や中国人民元に対して、準備通貨を保有することで多くの報酬を得ることができます。実際、相対的な金利差は、USDCNY(米ドル対中国人民元)が8.3を大きく超えて取引されるべきであることを示唆しています(図参照)。

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いくつかの主要なアジア通貨の弱さは明らかに相関しており、成長モメンタムの相対的な弱さを反映しています。アメリカにおける持続的なマクロレジリエンス(回復力)は、無責任に緩い財政政策によって支えられてきました。その結果として、金利の上昇が予想され、債券の長期金利の上乗せの可能性があります。リスク補償が狭く、株式市場におけるポジションが過剰で、盲信が強い中で、2024年後半に向けて強気な姿勢のセットアップではないでしょう。

この記事を書いた人

岩田雄

サウスカロライナ大学国際MBA、ウィーン経済経営大学国際MBA、修了。国際基督教大学卒業。

MBA終了後、東京でステート・ストリート信託銀行、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに勤務。ロンドンで日興アセット・マネジメント・ヨーロッパにて欧州/中近東のソブリンウェルスファンド、銀行、年金、保険会社、王族ファミリーオフィスなどに営業を行う。

その後、日興アセット・マネジメント・香港設立のため香港に転勤後、シンガポールの日興アセット・マネジメント・アジアに赴任。三井住友銀行シンガポール支店、J. Safra Sarasin銀行を経て2020年にコンサルティング会社をシンガポールで設立。

2023年4月にシンガポールのマルチファミリーオフィス、ファースト・エステート・キャピタル・マネジメント(First Estate Capital Management)の取締役兼ウェルスマネジメント部門のヘッドに就任。