コロナ対応に追われた2020年から22年までの間に暗号通貨と共に金融市場を賑わせたものに、特別買収目的会社、SPACがあります。当コラムでも第7回で取り上げました。

SPACについて

米国SECの定義では、SPACとは直接事業は行わず、株を発行して資金を調達し、その資金の大部分は信託口座などに預け、その資金をもとに将来、会社を1社あるいは複数社買収する目的で設立された会社となります。SPACは2年間の間に買収する会社を見つける必要があり、見つからない場合には清算されます。SPACのスポンサーが自主的に清算することもでき、いずれにせよ清算された場合にはスポン サーが経費を負担し、SPACの投資家は投資資金が戻されます。

SPACがブームとなった背景

コロナへの対応で通常の株式公開(IPO)に関わるロードショーができず、未公開企業を上場させるのが難しかった状況下でベンチャー・キャピタル(VC)ファンドが投資している未公開企業のエグジットとして SPACが利用されました。未公開企業の経営者やVCファンドの運用者は投資銀行と一緒に世界中の機関投資家にプレゼンテーションを行うことなく会社を上場させることができ(厳密には上場されている企業に買収されますが)、またSPACもそもそも買収を目的にしているので投資判断が早い利点もありました。また、ヘッジファンドなどがSPACに私募で投資するPrivate Investment in Public Equity (PIPE) など資金調達する手助けもあり、ブームとなりました。

各国の反応

欧州、シンガポール、香港などで制度が整い、日本取引所グループでも議論されました。2022年2月には「SPAC上場制度の投資者保護上の論点整理」が発表され、SPAC上場制度について「引き続き検討する。」と締めくくられていますが、その後の導入についての報道は目にしていません。

SPACは終焉を迎えたのか?

2022年も押し迫った12月25日にWSJが「SPACブームは清算の熱狂の中で終わる (SPAC Boom Ends in Frenzy of Liquidation)」と題する記事でアメリカにおけるSPACの終焉を報じています。今回はその記事をご紹介したいと思います。

まず、2022年12月に平均して毎日4つのSPACが清算されている事実を伝え、このペースは2021年前半のブームのピーク時に毎日4つ上場されていた裏返しとしています。記事では、調査会社のSPAC Researchの調べによると投資家に返却されたSPAC投資資金は年初来で約11億米ドル以上となり、12月だけでも約70のSPACが清算され、今後も数週間の間に多くの清算が続くと伝えています。

SPACブームが終焉を迎える2つの理由

記事の分析ではSPACブームが終焉を迎え、清算が急増している理由を2つ指摘しています。

  • 株価下落と金利上昇からIPO市場が冷え込んでいる
  • 2023年からの自社株購入への課税(1%)

1つ目の要因は市場に基づくものなので、循環的な要因と片付けられますが、2つ目はバイデン政権/民主党政策の副産物です。

2022年の秋に成立した歳出関連法案は気候変動対策、社会保障支出が目玉でしたが、自社株購入への課税も含まれていました。企業が行う自社株購入は株式を保有する一部の富裕層にのみ恩恵があり、不公平なので課税を実施する企業に課すのが導入の主旨です。記事によりますとSPACを清算し、投資資金を投資家に戻すのは自社株購入とも解釈され、課税対象となる可能性があるので駆け込みの清算が続いていると分析しています。

まとめ

冒頭でご紹介しましたがSPACが清算されると経費は全てスポンサーの負担となり、記事ではスポンサーの損失が今後数ヶ月の間に約20億米ドルを超えるとの予想も紹介されています。その一方で、著名なベンチャーキャピタリストのChamath Palihapitiya 氏は2つのSPACを9月に清算したものの、他の案件で7億5000万米ドル以上の収益を得たとも伝えています。SPACはスポンサーにとって一攫千金ができる仕組みでした。

ところでスポンサーの損失の約20億米ドルは投資銀行、弁護士事務所、会計事務所などの収入です。 ゴールドラッシュで大儲けができる山師もいますが、確実に儲けるのはスコップやジーンズを売った人、という歴史がまた繰り返されました。

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この記事を書いた人

岩田雄

サウスカロライナ大学国際MBA、ウィーン経済経営大学国際MBA、修了。国際基督教大学卒業。

MBA終了後、東京でステート・ストリート信託銀行、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに勤務。ロンドンで日興アセット・マネジメント・ヨーロッパにて欧州/中近東のソブリンウェルスファンド、銀行、年金、保険会社、王族ファミリーオフィスなどに営業を行う。

その後、日興アセット・マネジメント・香港設立のため香港に転勤後、シンガポールの日興アセット・マネジメント・アジアに赴任。三井住友銀行シンガポール支店、J. Safra Sarasin銀行を経て2020年にコンサルティング会社をシンガポールで設立。

2023年4月にシンガポールのマルチファミリーオフィス、ファースト・エステート・キャピタル・マネジメント(First Estate Capital Management)の取締役兼ウェルスマネジメント部門のヘッドに就任。