国際情勢の不安による世界的な資産防衛ニーズの高まりの中、富裕層の間で依然として注目されているのが「海外移住」や「多拠点生活」です。国外に生活拠点を持つことは、富裕層にとって不可避かもしれません。そして、海外にも生活拠点を持つということは、現地の不動産を所有するということになります。今回は、富裕層の海外移住に強い株式会社 La Quartaの小林雅之氏と、国際不動産に精通する株式会社国際不動産エージェントの市川貴士氏を迎え、「海外移住と国際不動産投資」をテーマに対談をお届けします。

インタビュイー:株式会社 La Quarta 代表取締役社長・小林雅之氏

インタビュイー:株式会社国際不動産エージェント 代表取締役社長 市川貴士氏
インタビュアー:中島宏明
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富裕層が海外移住を考える理由
――最近、海外移住を検討している方からの相談で多い内容はどんなことでしょうか?
小林氏:多いのはやはり、税金対策、お子さんの留学が理由の海外移住ですね。他には、ここ数ヶ月は特にビットコインなどの暗号資産で利益を上げ、税金対策をどうしたら良いかわからないという理由の相談が増えています。富裕層にとっては、資産を「増やす」だけではなく「守る」視点が不可欠です。その点で、税制面で日本以外の拠点を持つことは検討の価値があると思います。年代によっては、資産継承でどう資産を次世代に残すかも考え、その中で海外移住という選択肢がある感じですね。
市川氏:私たちは不動産を扱っているので、最初から不動産購入を検討している方からの問い合わせが多いのですが、小林さんに海外移住の相談をする方は、最初から不動産を購入することを考えているのでしょうか?
小林氏:「事前調査」という温度感の相談と、「もう移住することを決めている」という温度感の相談があります。後者の場合、先日も現地のデベロッパーとの直物件を交渉しました。そういったケースもありますが、まずは賃貸で移住してみて、現地に住んでみて良かったら不動産を購入するというステップを踏むケースもありますね。
スペック重視から「戦略重視」へ
――市川さんには、不動産投資を検討する方からの相談が当然多いと思いますが、利回り重視の方が多いのでしょうか?
市川氏:利回りなどのスペックを重視する方もいますが、単純に「いずれ現地に住むことを想定して」という方も多いですね。そういった方は、利回りよりも「値下がらなければ良い」という傾向です。また、決して多くはありませんが、「リスク分散で日本以外にも資産を」と、理路整然と整理してからご相談に来てくださる方も稀にいます。リスクヘッジのための保全資産なのか、それとも収益を狙うアクティブ資産なのか。戦略的な視点を持っている方も中にはいらっしゃいます。
小林氏:日本では「不動産投資=物件を買って家賃を得る」という傾向が強いと感じます。海外では、現地法人設立と組み合わせて税金や相続対策といった中長期の資産設計に活かすことが多いです。為替や税制まで含めて、シナリオ設計する意識も必要かもしれませんね。
富裕層が好む不動産タイプとその活用目的
――どのような不動産が、富裕層に選ばれているのでしょうか?
市川氏:一口に不動産といっても、目的によって選ばれるタイプは異なります。たとえば、永住権を取得して家族で移住する場合は、教育環境や生活利便性を重視した物件が人気です。一方、自己居住を想定せず投資のみを目的とする場合は、駅近やビジネスエリア近接など、賃貸需要が安定している物件が選ばれます。
メルボルンなどのオーストラリアの不動産では、グロス利回りで4%ほどでも、将来の移住先として選ばれています。オーストラリアは特に留学先としても人気の国ですね。イギリスも富裕層のご子息の留学先として人気です。大学の4年間の家賃を払うよりも、買った方が良いという判断をされる方も多くいらっしゃいます。
日本の非居住者になるメリットとデメリット
――海外移住するとなると、おのずと日本から住民票を抜いて非居住者になると思いますが、その点はいかがでしょうか?
小林氏:基本的には、海外に移住するのであれば非居住者にならない理由はないと思います。相談であるのは、「年に何回か日本に帰るときに、日本の病院に行きたい」ということです。日本の医療や健康保険制度は世界的にもとても優れていますから、一時帰国の際に住民票を戻す方もいらっしゃいます。私の場合、年に1500~1600米ドルほどで入れる任意保険を使っています。アメリカ以外で使える保険で、一旦は医療費を自分で払うのですが、1週間ほどで戻って来る仕組みです。
「非居住者を10年続けるのは難しい」という声もときどき聞くのですが、10年は長いようで現地に住んで忙しくしていれば案外あっという間ですよ。
市川さんは、日本の非居住者になるデメリットはなにか感じられますか?
市川氏:融資のときにはデメリットがあるかもしれませんね。日本は金利が安いですから、日本の融資を活用して不動産を購入したいというニーズがほとんどです。銀行との長いお付き合いがあれば、なんとか融資を受けられることもあるのですが、海外在住日本人の課題の一つではあります。
現地パートナーの存在が成果を左右する
――海外移住するにせよ、不動産投資するにせよ、実務をサポートしてくれるパートナーの存在が重要だと思います。いわゆる「日本人が日本人を騙す」ケースも多くありますが、どのように注意すれば良いのでしょうか?
市川氏:ビジネスを抜きにして本音を言えば、本当は現地のエージェントと直でやり取りできるのが一番良いのだと思います。しかし現実的には、多くの富裕層は現地での交渉に慣れていないので、面倒になってすぐに諦めてしまいます。また、物件管理の品質や方法など、日本流を押しつけるとうまくいきません。国民性は不動産取引ひとつでも現れますから、その国の商習慣や常識、文化を理解して汲み取れないと、交渉もうまくいきません。
現地の不動産事情というのは、ネットや本で調べても実態を掴むのは難しいです。たとえば「開発が進むエリア」などの情報も、実際に現場で見ないとわからないですし、行政の開発方針やインフラ整備のタイミングなど、地元とのネットワークがあるプロしか掴めない情報が多い。信頼できる現地パートナーがいれば、こうしたローカル情報をふまえた判断ができます。
小林氏:中島さんが「日本人が日本人を騙す」とおっしゃいましたが、言葉の壁があるとどうしても起こりやすいと思います。相手が言葉の通じる日本人というだけでガードが甘くなり、普段だったら騙されないようなことで騙されてしますわけです。
私も、海外移住の相談の中で現地の不動産を探すお手伝いもするのですが、市川さんの会社であれば安心ですが、極めて稀な存在です。コンサルティングフィーという名目で5%など、法外な報酬を取る人もいますし、売れ残りの物件を押しつけるケースもあります。
海外移住サポートの面では、現地のビザ・永住権などのルールは頻繁に変わります。上辺だけの情報、古い情報のままアップデートされておらず、海外移住をサポートするコンサル会社などが結果的に間違った情報を提供しているケースもありますね。この仕事をしていると、タイムリーで細かなアップデートが不可欠です。
市川氏:そうなると、小林さんにセカンドオピニオン的にでも相談した方が安心ですね。不動産もそうなのですが、お客様に対して真摯に対応すると、必ずリピートや口コミになります。
国を越えたローンや決済の可能性
――私も以前は海外に住んでいたのですが、海外送金や国を越えた決済は結構面倒ですよね。
小林氏:海外移住となると現地の銀行口座がないと不便なのですが、口座開設のハードルは上がっていますね。オンラインバンクだけでも生活できなくはないのですが。ギリシャやポルトガルなど、比較的ハードルの低い国もありますがマチマチです。
市川氏:融資が通れば不動産を買いたい人は俄然増えます。以前は非居住者向けのローンも通ったのですが、金融引き締めで厳しくなっています。
――小林さんが「ビットコインなどの暗号資産の税金対策の相談が増えている」と仰っていましたが、分離課税化など日本国内の税制改正の動きも進んでいます。その一方で、海外では伝統金融にビットコインなどの主要暗号資産が組み込まれるようになってきています。
たとえば、スイスのシグナム銀行(Sygnum Bank)は「暗号資産銀行」とも呼ばれてます。シグナム銀行では、法定通貨と暗号資産の預託受入、暗号資産トレーディング、レバレッジ取引、暗号資産を担保とした法定通貨ローン(クリプト担保ローン)、それらの他の銀行へのAPI提供などを行っており、スイスでは銀行ライセンス一つでそれらが可能とのことです。暗号資産はそもそも国境のない世界通貨でもありますから、外国人向けにクリプト担保ローンが開放されれば、海外移住や国際不動産投資がもっと身近になりそうです。
複数拠点・複数国籍の時代に求められる視点
――最後に、富裕層にとって海外移住や国際不動産投資は、今後どのような意味を持つのでしょう?
市川氏:複数国籍・複数拠点の資産管理が当たり前になっていくのではないでしょうか。不動産は、金融資産とは違って“現地に根差した資産”なので、その国の法制度、税制、金融政策の影響を大きく受けます。だからこそ、リスク分散のためにも国際分散が不可欠なのでしょう。
小林氏:特に相続や事業承継を見据える富裕層にとって、「資産の置き場所」や「なにかあったときの移住先」をキープしておくことは大きな安心材料になります。現地に住まずして永住権を得られる、ギリシャやマルタ、キプロスのような国もあります。なにかあったときに行ける許可証を持つ感覚ですね。指紋を取るので1回は渡航が必要ですが、5年更新ですし、EU圏はパスポートなしで移動できる利点もあります。
――海外移住や国際不動産投資をセットで考えて、“人生のインフラ構築”として検討するのも良いですね。視野や交友関係も広がりますから、資産防衛と成長、その両方を見据えて考えてみるのも良さそうです。本日は、ありがとうございました。