円安による家計へのダメージを緩和するべく、エネルギー価格の高騰の抑止策となりうる「原発再稼働」を岸田首相が指示しました。冬の電力の安定確保のため、最大9基の原発稼働を進めるように会見で話しました。ある世論調査で「原発の再稼働について賛否」を尋ねたところ「賛成」が48.4%と半数近く、「反対」は27.9%、「どちらとも言えない・分からない」は23.8%と賛成の多さから世論の関心度の高さも伺えます。
■9基再稼働の本当の意味
今回の岸田首相の再稼働の会見をめぐっては、電力会社が再稼働を申請した25基のうち原子力規制委員会の審査を通過した計画を追認したに過ぎないと言う意見があります。つまり、新規の再稼働ではなく、既に決まっていた既定路線を発表しただけで“うまい表現に騙されているだけなのではないか”との見方です。確かに、今回の再稼働は西日本の施設であり、東日本が入っていません。電力の安定供給に最低限必要な予備率3%を下回っている東京電力と東北電力は2023年1月には1.5%と深刻な電力不足が予想されているため、東日本も含めて議論を進めるべきであって「9基では足りない」との意見も多いようです。しかし、これまで現役の総理が原発に対して明確にメッセージを出す事は考えにくい状況でした。足元のエネルギー価格の高騰や円安の進行、参院選の勝利などの条件が整ったことで発言できた意味合いは大きいと言えるでしょう。この先、継続的にメッセージを出せば、原子力規制委員会へのマインドにも影響を与えることになると考えます。今冬は夏よりも電力不足が深刻と予想されているため、日本の危機に対処した政策の実行が急務なのは間違いないでしょう。
■原発再開は貿易赤字を半減できる可能性
国力という視点から原発再開によって貿易収支が改善する可能性について考えましょう。急速に進む円安の構造要因としては、近年、国際収支における経常収支及び貿易収支の赤字が定着していることも1つです。2021年の貿易統計は、輸出額は83兆931億円、輸入額は84兆5652億円となり、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆4722億円の赤字です。特にLNG輸入で貿易収支が悪化している。2021年のLNG輸入額は4兆2,779億円に達しています。LNGの輸入量を減らすことができれば、貿易収支の改善に寄与することができると考えられます。
では、原発再開することで、LNGの輸入量削減にどれほどのインパクトがあるのでしょうか。2021年の国内LNG消費量は7,432万トンでした。ある試算に基づけば、原発1基の再稼働で年間約57万トンのLNGが削減でき、326億円のコスト削減に繋がります。9基再稼働で約2934億円、また25基の稼働で8150億円のコスト削減に繋がる試算ができます。2021年の貿易統計を基準に考えた場合、原発の再稼働によって1兆4,722億円の貿易赤字のうち、9基稼働で約20%、25基稼働で約55%の赤字幅を押さえことができるインパクトとなるわけです。もちろん原発再開だけで、貿易赤字を吸収できるほどの金額ではないものの、ある程度の赤字改善には寄与するでしょう。今後、貿易統計の赤字幅が縮小するデータが発表されることを為替市場が織り込むことも十分にあり得ると考えます。
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