ビットバンク株式会社と三井住友トラスト・ホールディングス株式会社は、デジタルアセットに特化した信託会社の設立に向けて、その設立準備会社となる「日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社 ※略称 “JADAT”(Japan Digital Asset Trust Preparatory Company, inc.)」への三井住友トラスト・ホールディングスからの出資を含め共同で検討していくことに合意し、基本合意書(以下、MOU)を締結しました。JADATの存在は、機関投資家の暗号資産市場への参入を後押しすることになるのでしょうか。2022年5月24日(火)に行われたビットバンク社主催の記者会見の様子から、JADAT設立の背景などを解説します。

(ビットバンク社主催の記者会見配布資料より)

JADAT(日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社)とは

日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社(JADAT)は、ビットバンク社が有する最先端かつ高度なセキュリティレベルの暗号資産管理に係るノウハウと、専業信託銀行グループである三井住友トラスト・グループが有する信託業務に係るノウハウを融合させたデジタルアセットに係る資産管理サービスを行う信託会社の設立準備会社となる予定です。

JADATは信託業法に基づく関係当局の登録を前提として「日本デジタルアセット信託株式会社」に商号変更する予定で、暗号資産をはじめとするパブリック型ブロックチェーンのセキュリティトークン(社債や不動産などを裏付け資産とするデジタル証券)、ステーブルコインおよびNFT等のデジタルアセットを取り扱うことになります。JADATは暗号資産をはじめとしたデジタルアセットの価格に連動するファンドや機関投資家、デジタルアセットを活用したビジネスを展開する事業法人に対し、信託及び資産管理機能を提供するようです。

(ビットバンク社主催の記者会見配布資料より)

JADAT設立の背景にあるのは「暗号資産のユースケース拡大」

デジタルアセットに特化した信託会社の設立は日本国内では初になりますが、JADAT設立の背景にはどのようなことがあるのでしょうか。

2020年以降、北米を中心にデジタルアセット関連のファンドやカストディ事業、市場指数などが続々と誕生し、ビットコインなどの暗号資産が本格的なアセットクラスとして認知されはじめたことで、世界では機関投資家のデジタルアセット市場への参入が相次ぎました。また2021年には、アメリカで初となるビットコイン先物ETFの上場や暗号資産交換業者であるコインベースのナスダック上場などによって投資環境がさらに整備されたことで、デジタルアセット市場は2017年以来の活況な相場環境になりました。

さらにNFTに関連するゲームやメタバース領域の発展で暗号資産のユースケースが拡大したことにより、個人投資家の資金が流入したことも相場を後押ししたといえるでしょう。

しかし一方で、日本国内のデジタルアセット市場においては個人投資家の増加は見受けられましたが、機関投資家や事業会社の参入は未だに見られません。その要因として、「信頼に足るデジタルアセットのカストディ会社が存在しなかった」とビットバンク社の廣末氏は記者会見で語っています。

また、ステーブルコインやNFT等を本業ビジネスに活用することを検討する事業法人にとって、カストディ機能の不在が本格的なビジネス展開の阻害要因となっている面もあるでしょう。そうした業界全体の課題を解決するべく、デジタルアセットの保管・管理技術に強みをもつビットバンク社と、カストディ事業において国内随一のノウハウやネットワークを有する三井住友トラスト・ホールディングス社が共同でデジタルアセットを安全に保管・管理する機能を果たすことで、国内の機関投資家や事業会社がデジタルアセット市場に参入しやすい環境整備を目指すに至ったようです。

暗号資産に目を向ける日本企業は稀

企業や機関投資家が暗号資産に投資するケースは、テスラやマイクロストラテジーなどのアメリカ企業が挙げられるのに対し、日本企業ではほぼ見られませんでした。アメリカでは、伝統的な金融機関がすでに暗号資産業界に参入しており、アメリカドルに連動するステーブルコイン「USDC」を発行するサークル(Circle Internet Financial)は、BNYメロンが準備資産のカストディアンとなると発表。さらに、世界最大の資産運用会社であるブラックロックがアセットマネージャーとなることを発表しています。また、ニューヨークに本社を構え、複数の暗号資産ファンドを運営するグレースケール(Grayscale)は、コインベースカストディに資産を保管していることで知られています。こうした金融機関の業界参入が、個人投資家の安心感につながっている面もあるでしょう。

欧米では、早期にカストディ事業者が整備されたため、機関投資家や運用会社は暗号資産を組み込んだ運用商品を組成したり、投資したりといった動きがスピーディーでした。暗号資産投資信託大手となったグレースケールの運用資産残高は、一時ゴールドの最大手ETF「SPDRゴールド・シェア」の額を超えるなど、ほかの投資商品と比較しても遜色ない規模になっています。

ところが日本国内では、暗号資産に目を向ける機関投資家はほぼ存在せず、一部の私募ファンドが登場しているに過ぎません。「カストディを個社がやるのは非常に無駄。できる会社が横断的にやることで、全体最適を目指すべきだ」「安全なインフラがないと安心して事業ができない。機が熟してきた。税制や会計基準の問題を一つずつクリアして市場を発展させていきたい」と廣末氏は述べています。カストディが存在し、ユースケースが整い、社会的に受け入れられれば、欧米のように日本でも金融商品化は進んでいくのではないでしょうか。

この記事を書いた人

中島宏明

経営者のゴーストライター
(書籍、オウンドメディア、メルマガ、プレスリリース、社内報、スピーチ原稿、YouTubeシナリオ、論文…)
  
2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。2014年に一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

マイナビニュースで、投資・資産運用や新時代の働き方をテーマに連載中。