■数年ぶりに動き出した円相場。投機マネーも流入

円相場が一時131円台まで急落し、2002年4月以来、約20年ぶりの円安水準まで売り込まれました。ドル円はここ数年、一年間で動く値幅が10円に満たないことも多く、今年のように1月につけた113円50銭あたりから5月の131円30銭まで、たった4ヶ月で18円弱も動くのは非常に珍しいこと。いったい、ドル円相場に何が起こったのでしょうか。

専門家は「日米の中央銀行が行っている金融政策の差だ」「日本の国力が落ちているから」など、様々な要因を指摘していますが、その要因は一つではなく、いくつもの背景が複合的に絡み合った結果、これだけのスピードで走り出したのでしょう。相場が動けば、投機マネーも動き出します。短期的な利益を狙った投機家たちの動きも加わって、大相場を形成。ただ、気になるのは、この円安トレンドが超長期にわたって進む可能性があるという分析が多いことです。

私たち投資家は、今後、この円安を考慮したうえで、投資対象を選ばなくてはなりません。今回は、企業への取材を通じて見聞きした現状をまとめてみたいと思います。

■「急激な」円安が、悪?

まずは、円安でデメリットをモロに受けている「小売業」からです。特に、安い商品を中国などの海外で製造し、国内に輸入している100円ショップ運営各社への取材です。

各社いずれも、年明けから急激に進んだ円安によって、かなりの利益が圧迫されています。100円ショップ運営会社は、自社および企画会社と企画した商品を、製造会社に依頼して商品化し、それを仕入れて販売しています。企画をたてて、相見積もりをベースに製造先を選定し、製造に入るまでの期間は、短くても一ヶ月、長いものになると一年以上かかって、ようやく商品ができあがります。

もし、見積もり段階で、1ドル110円を想定していたにも関わらず、実際に商品ができあがった時にドル円相場が130円になっていたら、どうなるのでしょうか。答えは、自動的にその分のコストが上乗せされ、もともと薄利だった商品が店頭に並ぶころには、赤字になってしまうこともあるのです。

ただ、ここで重要なのは、為替相場の「スピード」です。

例え、円安が進んでとしても、今回のように急激な円安ではなく、ゆったりと進んでいれば、製造過程で素材を変えたり、内容量を調整したり、価格を少し上げたりと、いくつか手の打ちようがあるのです。しかし、今回のような上昇スピードが速い時には、企業が対処することが難しく、そのコストを受け入れるしかありません。

■円安だから、利益が増えた企業も

これは、小売業だけの話ではなく、一部の製造業にとっても同様です。

製品の部品の一部を海外で製造している企業は、その製造した部品を国内に輸入して、国内の工場で組み立ててから、取引先に納入します。商品を輸入する小売業と同じように、製造業にとっても急激な円安は、利益の圧迫要因になります。

しかし、その製品を海外で販売しているのなら、話は別です。販売した代金を外貨で回収できることから、円安は、一転して利益増につながることも考えられます。ただ、国内で組み立てた後、国内の取引先にそのまま国内で販売するのならコスト増であり、加えて、エネルギー価格の高騰で、工場の機械を動かす電力や軽油などの負担も増加していますから、かなりのコストが上乗せされることもあるでしょう。

もし、その企業が、取引先に値上げ交渉ができるほど優位な立場にあるのなら、製品を値上げによって様々なコスト増を価格に転嫁できますから、その製品の市場シェアがどの程度あるのかもとても重要です。

投資する前に、その企業が部品をどこで作り、どこから調達しているのか。その製品をどこで販売しているのか。その製品の市場シェアがどの程度なのか。ぜひ、確認してみてください。

■円安が次の成長の糧に。

最近、よく目にするのが、円安をメリットに圧倒的に利益を伸ばした企業が、その利益を増産のための設備投資に使い、次の成長につなげようという動きです。また、余剰利益を株主に配分する「増配」に動いた企業も多くみられました。こういった企業は、さらなる成長にも期待できますから、より長期的な視点で、投資を考えてみてもいいのかもしれません。

また、円安に加えて、地政学的なリスクなども高まっていることから、企業が製造拠点を国内に戻す動きも見られ始めました。それは、製造業にとどまらず、資生堂やマツダ、日清食品と幅広い業態に広がっています。昔は、高かった国内の人件費が、相対的に安くなってきたことも理由のひとつだと言いますから、皮肉な結果ではありますが…。専門家によれば、この傾向が「3、4年は続くのではないか」との声も多く聞かれます。

円が安くなると、ワイドショーなどでは「悪い円安」「私たちの生活はどうなる!?」と話題になりますが、メリット、デメリットをよく見極め、日本企業、ひいては経済全体にプラスに働くことも多いことを知っておかなくてはなりません。

この記事を書いた人

内田まさみ

1998年にラジオNIKKEIへ入社。『経済情報ネットワーク』、『東京株式実況中継』等の株式情報番組を担当し、その後はフリーに転身。現在はラジオNIKKEIや日経CNBCの番組パーソナリティを務めるほか、ライターとして複数のメディアに記事を執筆するなど、多方面で活躍中。2017年11月には、初の著書となる『FX億トレ! 7人の勝ち組トレーダーが考え方と手法を大公開』を刊行した。

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