世界的な高インフレで「金融相場」と「業績相場」は終わるのか。
原油価格が120ドルを超えるなど、世界的な高インフレがつづいています。
そのインフレに対処するため、新興国のみならず、米国や英国など、先進国の中央銀行も、政策金利の引き上げに踏み切りました。これで、長らく続いた「金融相場」と「業績相場」は終わるのでしょうか。
相場には、「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」という、4つのサイクルが存在すると言われています。
まず「金融相場」は、政府の景気対策や中央銀行の緩和政策によって生じる「金余り」で、株価が上昇する相場を指します。不景気になると企業業績は悪化して株価が下落しますが、政府による景気対策や中央銀行の金融緩和策によって、市中に流通する資金量が増えて「金余り」が発生。その資金が企業の設備投資に使われたり、株式市場に直接流れ込んだりすることで、株価は上昇していきます。まさしく、新型コロナウイルス感染拡大を期に発生した「金余り」資金が、株式市場や他の金融商品の上昇相場を形成したのは、「金融相場」だったからです。
また、この金融相場では、業績に先行する形で株価が上昇していくという特徴もあります。
特に印象深かったのは、1999年から2000年代前半におきたITバブル期の日本のヤフー株(現在のZHD:証券コード4689)の上昇で、初値の200万円から、2:1の株式分割を行ったにもかかわらず、1億6000万円台まで買い進まれたこと。PERなどの指標が割高を示したとしてもさらに買われていくのです。
その金融相場に続く「業績相場」では、景気対策や金融緩和策によって、企業のさらなる成長や業績の回復に期待が高まり、景気拡大でメリットを受ける企業を中心に、株価が上昇していきます。同時に、金融相場で割高な水準まで買われていた企業も、実際に企業業績が向上することで割高感は徐々に薄れていきます。
新型コロナウイルスによって抑えられていた経済活動が急激に回復し、製造業を中心に業績が好転したここ数カ月の間に、相場は、金融相場から一気に業績相場へと切り替わっていたのです。
今回の下落は、「逆金融相場」への警戒が背景のひとつ
そしてマーケットがいま懸念しているのが、次に来る「逆金融相場」です。
「逆金融相場」は、景気拡大で生じたインフレを抑制するため、中央銀行が政策金利を引き上げていきます。実際に、米FRBが3月の会合で政策金利を25bp引き上げることを決定し、年末には1.9%まで上昇させると予想されています。
金利が上昇すれば、投資家の資金は、株式市場から債券など固定金利の金融商品に流れるため、当然のように株価は調整局面入り。金利が上昇しても業績に影響しにくい無借金企業などが物色されやすくなります。年明けに米FRBがタカ派に転じ、マーケットでは強烈な「グロース株」から「バリュー株」へのポジション調整が起こり、相場は急落しましたが、これも、相場サイクルに沿った動きだったのです。
そして、「逆金融相場」の後に来るのが、「逆業績相場」です。
金融引き締めによって景気が停滞もしくは下降し、企業業績が悪化。株価も下落していきます。物色されるのは、景気が悪くても必要とされる生活必需品やインフラ関連銘柄が中心で、金利が高くなると収益が上がりやすい金融セクターも注目されるようになります。
底入れ鮮明な製造業も、業績予想を疑ってみよう
現在の世界的な高インフレは、長期化することが予想されており、金融引締めも長期化する可能性が高いと言われています。そうなると、「逆金融相場」がしばらく続き、「逆業績相場」入りすることを前提に投資行動をとる必要が出てきます。
4月下旬には、3月期決算企業の業績発表が本格化しますが、2022年3月期 第3四半期の業績から見えたのは、上場企業の多くに、新型コロナウイルス禍で落ち込んでいだ業績底入れが鮮明になってきたことでした。
日本経済新聞社の集計によると、2022年3月期の純利益見通しが、期初時点を上回った企業は50%近くにのぼり、特に、中国や欧米諸国の経済再開を追い風に、製造業の需要が回復。上方修正の社数が多かったのもその製造業で、社数ベースで50%近くが上方修正を行ったそうです。輸出関連企業にとっては、為替相場が期初の想定より円安になっていることも利益の押し上げ要因であり、複数回上方修正した企業も散見されています。
私が定期的に取材している工作機械などを手掛ける企業の多くも受注残高が急増。第2四半期に続き、第3四半期終了時にも、受注残高の過去最高を更新する企業が相次ぎ、「顧客企業の希望に納入できるかわからない」と嬉しい悲鳴を上げるほどの規模に膨れ上がっています。
しかし、いま私が気にしているのは、先日お会いしたある工作機械メーカー大手の経営者が言った「この受注残を疑ってみる必要がある」との一言。
もし、金融引き締めによってこの景気拡大が止まるのなら、その受注は全て売上につながるのか。キャンセルや先延ばしによって、実績にならないかもしれない――。頭の片隅で、2023年3月期の実績が期待を下回る可能性があることを警戒しておいたほうがよさそうです。