「健康資産」や「健康経営」への関心が高まっていますが、経営者ご自身や従業員の方々の睡眠の質向上やストレス緩和のために具体的なアクションを起こせている方はまだまだ少ないでしょう。まずは、どんなことから始めれば良いのでしょうか。本稿では、これまでに3000人以上の経営者の健康サポートを行い、累計180社・8万人以上の法人健康サポートの実績をお持ちであるLifree(ライフリー)株式会社・代表取締役のサトウ未来氏にお話を伺いました。
インタビュイー:Lifree株式会社 代表取締役 サトウ未来氏
Lifree株式会社 公式サイト
インタビュアー:経営者のゴーストライター 中島宏明
起業から炎のように働き続け、50代でふと感じる変化
――本日は主に、「経営者の睡眠不足が仕事/プライベートに及ぼす影響」をテーマにお話をお伺いできればと思います。経営者の中でも、特にオーナー社長は起業以来ずっと働き詰めの方が多いと思いますが、サトウさんが支援されている経営者の方々も同様でしょうか?
サトウ未来氏(以下、サトウ氏):そうですね。経営者の方々の年代はさまざまですが、日本の企業様ですと、やはり50代の男性経営者が多いと思います。炎のように働き続けてきて、40を過ぎたあたり、42歳前後で身体やパフォーマンスの変化を実感される方が多いです。「今までとなにかが違う」という違和感です。
「アルコールが翌日に残るようになった」「今までのようにお酒を飲めなくなった」「食べられる食事の量が減った」「食事の好みが変わってきた」「寝つきが悪くなった」「夜中に起きることが増えた」など、いくつか傾向があります。起業家や経営者の方々は、「24時間働く」という価値観をお持ちの方も多く、急に「リラックスしましょう」と言われても切替が難しいのです。リラックスの仕方を知らないので、お酒を飲んでリラックスしようとします。ところが、いまいちリラックスできていない。疲れが残るという方も多いのではないでしょうか。
また、「休むこと」への恐怖感もあると思います。がんばったらがんばっただけ業績に反映されていたという部分もあって、休んだら業績が悪化してしまうのではないか、成長が鈍化してしまうのではないかという不安もお持ちです。
ですので、私は働き続けることがダメとは言いません。あくまでも、ご自身がしたいことを実現するために睡眠とどう上手に付き合うかという観点でサポートをさせていただいています。
しかし、すでに身体に変化や影響は出てきていますから、「今までどおり」というわけにはいきません。起業家・経営者の方々は気力が強いので、なんとかそれで引っ張っていけてしまうのですが、身体へ負担をかけ続けることになります。睡眠の質を向上し、パフォーマンスを発揮できるようにすることが、私たちの使命です。
睡眠不足で失われるもの
――健康不安よりも、休むことへの不安の方が勝ってしまう人も多そうですね。睡眠不足や不眠、睡眠の質の低下によって、どのような悪影響があるのでしょうか?
サトウ氏:不眠状態はメンタルダウンになる可能性が40倍高まるといった研究も出ていて、鬱になりやすくなることがわかっています。他に、集中力や判断力の低下、学習能力の低下、創造性の低下、物事に対する意欲の低下など、悪影響ばかりです。起業家・経営者などリーダーの睡眠不足や睡眠の質の低下は、ご自身だけでなく従業員にも影響を及ぼします。
なぜかと言うと、コミュニケーションへの影響が大きいからです。睡眠不足によって負のバイアスがかかり、普通に話しているだけなのに「疑われている感覚」を覚えてしまうことがあります。そうなると、コミュニケーションにも影響が出て人間関係が悪化してしまいます。人間関係が悪化すると、ますますコミュニケーション不良になり、社内のチーム力が低下し、業績にも影響が現れます。
企業の規模を問わず「健康経営」への関心が高まっているのは、経営者や従業員の方々が健康になることでコミュニケーションが円滑になり、チーム力が向上し、離職率の改善だけでなく業績アップにもつながることが考えられるからではないでしょうか。
また、私たちはセルフマネジメント力を上げるサポートもしています。ストレスの原因は、なにも会社・仕事だけではありません。家族・プライベートが原因になっていることもありますし、リモートワークの普及によって会社と家庭の境界線も曖昧になってきました。そのため、リカバリー力を身につけることが重要だと感じています。
リラックスするにはスキルが必要
――未然に防ぐことも大切ですが、リカバリー力があれば一度低下してもまた立ち上がれますね。より良い睡眠を取り、リラックスするためには、どんなことをすれば良いのでしょうか?
サトウ氏:仕事や経営に知識・スキルが欠かせないように、睡眠やリラックスにも知識・スキルが欠かせないと考えています。休み方を知ることは、知識・スキルを身につけることです。
そもそも人間の身体には闘争本能が備わっており、交感神経は0.01秒でスイッチが入るようになっています。日常で言えば、明るい照明やPCの液晶、スマートフォンのライトも交感神経を刺激します。一方、副交感神経は緩やかにスイッチが入るので時間かかります。そのため、リラックスすることはハードルが高いのです。力むのではなく脱力することにシフトしないといけないのですが、「がんばらないことをがんばるのは難しい」と言えます。右利きの人を左利きにするようなものです。私たちは、睡眠を起点にどうやってリラックス状態をつくっていくかを、お客様お一人おひとりに合わせてフルオーダーメイドでサポートしています。アスリートの方々は、正しく休むからこそパフォーマンスを発揮できるわけです。「どうやって1日のパフォーマンスの波をつくるか」「どうやって効果的に休息を取るか」をプランニングしていきます。
例えば、寝る前にはなるべく情報を遮断することもスキルのひとつです。私たちの目に日々入って来る広告やニュースなどには、興奮させる要素が含まれています。寝る前はなるべく情報を浴びないようにすることも大切です。
また、必ず湯船に浸かること、スマートフォンの使用は寝る前は控えること、部屋の照明をダウンライトにするなど、日常に取り入れられる工夫や習慣もあります。日本の照明は世界的にも明るすぎると言われていて、衛星写真を見てみても日本は明るいのです。蛍光灯が多いことも理由ですね。照明をダウンライトにするだけでも、睡眠の質は上がります。
(後編に続きます…)