着実に拡大しているIFA業界ですが、顧客との接点の持ち方はどう行われているのでしょうか?2000年頃からのオンライン証券の台頭と比較してみましょう。
オンライン証券:淘汰を経てSBI証券の一人勝ち
日本では1999年の株式売買委託手数料完全自由化以降、株の売買手数料の引き下げが進みました。同じころ、インターネットの普及により2000年頃からオンライン証券が台頭、手続きの簡便さや手数料の安さが受けて株の投資家数を増やし、今では完全に定着しました。2000年当時は多くのオンライン証券が設立されましたが、インフラコストの負担や既存ビジネスとのカニバリゼーションなどから多くの企業が撤退、現在のような大手寡占の状態が出来上がりました。
現在ではSBI証券が、高いシェアを活かした手数料引き下げ戦略と、投資銀行業務との連携によるIPO銘柄販売などで急速にシェアを伸ばす傍ら、他の企業はシェアを落としています。手数料が取引動機のトップになるビジネスである以上、トップ企業が優位であることは間違いなく、今後もSBI証券優位の状況が続くと思われますが、価格に敏感なオンライン証券の本来の顧客層はIFAの顧客層と重なることは少ないと思われます。
■オンライン証券大手5社の純営業収益推移
総合証券の収益構造は15年前と同じ
さて、それでは総合証券の株式売買委託手数料は激減したのでしょうか?実は、総合証券の収益構造はさほど変わっていないのです。野村ホールディングスの決算資料を基に、直近の2021年3月期と、ITバブル崩壊の傷もやっと癒えて、2021年3月期に近い税前利益を計上した2005年3月期との営業収益の構成を比べてみると、株の売買や投信募集に伴う手数料の構成比は27%と28%となっており、殆んど変わっていないことが分かります。
■野村ホールディングスの2005年3月期と2021年3月期の純営業収益構成比
総合証券のリテールビジネスは情報力・総合力を武器に一定の顧客層を取り込み
野村ホールディングスの営業部門セグメントでは、委託・投信募集手数料の収益貢献がさらに大きくなり、今でも全体の51%と過半を占めています。投信残高報酬などストックビジネスの割合を増やす努力は続けているものの、その収入額は頭打ちとなっており、やはり委託・投信募集手数料への依存は依然高いままです。
■野村ホールディングスの営業セグメントにおける営業収益内訳(2021年3月期)
このように、オンライン証券よりも割高な手数料を払ってでも総合証券と取引する顧客は確実に存在し続けるのです。そして、こうした客は市場に敏感に反応しており、市況に合わせて取引高を増減させています。実際に国内外の株価が好調であった2021年3月期は、株式、投信の手数料が増加、増益に貢献しました。
■野村ホールディングスの営業セグメントにおける委託・投信募集手数料内訳
もっとも、成長性はあまり期待できないのも事実です。野村ホールディングの営業部門セグメントをみると、営業収益は全体として頭打ちで、市況により増減しているだけに見えます。外国株や新しい投信などの導入でやっと顧客をつなぎとめている状況と言えるでしょう。
■野村ホールディングスの営業部門業績推移
野村證券の顧客が取引を続ける理由は、情報力や総合力を評価しているからだと思われます。こうした顧客は、まさにIFAの潜在顧客と言えます。
身軽さを武器にIFAの躍進が見込まれる
IFAの優位性は、費用、資本負担の身軽さにあります。野村ホールディングスの場合、営業収益の47%は経費として消えますが、最近上場したアイ・パートナーズの2021年1Qの決算説明会資料をみると、わずか9%です。また、バランスシートの負担も野村ホールディングスが営業収益の1.73倍の固定資産を持っているのに対し、アイ・パートナーズはわずか0.04倍です。このようにその他の負担が少ない分、IFAにより多く報酬として支払うことが可能となっているのです。最近、大手総合証券を退職してIFAを開業する人が増えているのもこうした事情が背景にあります。
■野村ホールディングスとアイ・パートナーズの費用・資本構造の違い
ただIFA企業は一般的に規模が小さい分、顧客に対するきめ細かなフォローアップが可能である反面、情報力や総合力が不足している面は否めません。今後、こうした点が強化されれば、総合証券からIFA企業へのシフトは加速すると思われます。