2022年の不動産市況・賃貸住宅建築市況・投資マンション市況は好調が続きました。日銀金融政策は昨年に一部変更になりましたが、2023年以降の不動産市況はどうなるでしょうか?まずは、2022年の不動産投資市況からみてみましょう。

約2年間も続く年同月比プラス!好調が続く賃貸住宅建築

22年の新築住宅着工件数をみれば、賃貸用住宅が主な「貸家」では、2021年3月以来、2022年12月分まで21カ月連続して前年同月比プラスとなっており、好調が続いています(執筆時1月31日時点最新データ)。

22年の1年間では前年比7.4%のプラス、約34.5万戸程度でした。新型コロナウイルスの影響がなかった2019年分を超えました。貸家の建築は、遊休地活用(土地活用)としての賃貸住宅の建築や投資用賃貸住宅建築です。2021年、2022年中とも賃貸住宅建築、賃貸住宅投資はかなり勢いよく、特に賃貸用住宅への投資は活況でした。

また、分譲マンションの建築(投資用区分マンションも含む)も好調でした。2022年1-12月までの分譲マンション建築数は、昨年比プラス6%、約10.8万戸となりました。

ちなみに、主に自宅用注文住宅建築である「持ち家」は、昨年から大きく落とし、2022年1年間では約25.3万戸、昨年比マイナス11.3%となりました。

歴史的に低いキャップレート

別の視点からも賃貸住宅投資・区分マンション投資の活況ぶりがうかがえます。不動産投資市況が強く反映される期待利回り(キャップレート)のデータでは、(財)日本不動産研究所が年二回(4・10月)に調査する投資家調査の中のキャップレートの動きをみれば、最新の2022年10月調査(2022年11月25日公表)では、賃貸住宅(ワンルームタイプ:1棟)のキャップレートは東京城南エリア(目黒区・渋谷区)では3.9%となり、調査開始以来、初めて4%を下回りました。また実際の取引水準では3.6%程度となっています。賃貸住宅投資熱が極めて高い状況にあると言えそうです。

日銀金融政策変更の影響はどれくらいあるのか

しかし、不動産市況に大きな影響を与える金融政策の一部が変更になりました。

2022年12月20日に日銀は、「異次元緩和」を少し転換する政策を発表しました。具体的には、政策金利はいわゆる「マイナス金利政策」を維持するものの、長期国債の買い入れにおける許容範囲をこれまでの0~±0.25% から0~±0.5%に変更。これにより、長期国債は0.5%まで上昇可能性があります。最近落ち着いてきているものの、一時は0.5%を超える局面もみられました。執筆時点の10年物国債の金利は0.4%台半ばで推移しています。

長期国債金利の上昇は、不動産市況に3つの影響を及ぼします。

1.住宅ローン金利の上昇

1つ目は、住宅ローン金利、特に固定金利の上昇を招きます。すでに住宅ローン固定金利は上昇しています。また、仮に政策金利が上がれば、短期プライムレートが上昇、そして変動金利の上昇可能性が高まります。こうした状況になれば、2022年は低調だった「持ち家」建築ですが、2023年も厳しくなるでしょう。

2.キャップレート上昇の可能性

2つ目は、先に述べたキャップレートの上昇可能性があります。キャップレートの上昇は、賃料一定ならば理論上(実取引ではなく)は、価格下落を意味します。理論上の価格が動くことと、実取引での価格が動くことの間にはタイムラグがありますが、「そのうちに」理論価格に収斂されます。

3.外国人投資家優位性の減少

3つ目は、円高へ振れることで、外国人投資家の優位性が減るという影響です。実際に先に述べた国債金利の許容範囲の変更により、為替相場は大きく動きました。一時は1ドル150円に迫る状況から、現在では130円前後となっています。

これら3つから判断すると、2023年の不動産市況は金利次第、ということになります。前半は22年の勢いのままで進み、金利が上がれば後半失速可能性が高まります。

投資用マンションの選別が進む

金利の状況次第では、不動産市況にブレーキがかかりかねませんが、一方で、分譲マンションや投資用区分マンションにおいては、影響が大きく出る物件とそうでない物件に分かれると思われます。

立地の極めて良い物件、希少価値の高い物件は、たとえ多少金利が上昇しても、ほとんど影響はないと思われます。23年の株式市場は、それほど良いという予測は出ておらず、株式利益確定の資金の行く先として、このような「ピカピカ」物件の購入に流れてくるものと思われます。

このような背景から、2023年以降の投資用の不動産選びには変化が出ると思います。

区分マンション投資では、「23区やその周辺地域」で「駅からの距離が近く」の「ワンルームタイプ」なら、どんな物件でもよい、という神話はそろそろ終焉を迎えるでしょう。

これからのワンルームマンション投資では、「たとえ坪単価が高く」ても、「23区やその周辺エリアの中でも、極めて人気の高いエリア」の「駅から徒歩8分以内の物件」で、「外観や内装、水廻り設備のレベル」の物件を選ぶ方が賢い選択と言えるでしょう。 

2023年は大きな変化の年になると思います。しっかりと適切に情報を集めることが何より重要です。

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この記事を書いた人

吉崎 誠二

不動産エコノミスト
社団法人住宅・不動産総合研究所 理事長 
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。

【著書】
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。

【レギュラー出演】
ラジオNIKKEI「吉崎誠二のウォームアップ840」
ラジオNIKKEI「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演