10月21日に総務省が公開した9月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、前年同月比3.0%(総合指数)上昇しました。消費税率引き上げの影響を除くと1991年8月(3.0%上昇)以来の3%台乗せ。原材料価格の上昇に伴う価格転嫁が進む中、8月の2.8%上昇から伸びが加速しています。
今回のコラムでは、この物価高騰が消費動向にどのような変化を及ぼしているのか、小売企業への取材をまとめます。
現場の最前線では、いまどんな事が起こっており、企業はどんな対応をしているのか。そして経営者は、どんな戦略を考えているのか、現場の生の声をお届けします。
スーパーやホームセンターは、デフレで築き上げた強さが引き続き勝ち組の条件に。
まずは、食品スーパーやホームセンターを運営している企業です。
ある経営者によるとこのグループの店舗では、「値上げ前には駆け込み需要が発生する一方、連休などのお金を使うイベントの後には買い控えが起こったりするなど、物価高に対する様々な消費行動が入り混じっている」と言います。そのため「先行きが見通しにくくなっている」とも。
では、物価高がしばらく継続するなら、消費者は今後どのような消費行動を起こす可能性があるのでしょうか。
もちろん、安価な商品に向かうのは当然です。それも、セールなどで一時的な特売をしている店舗よりも、毎日低価格で提供する「エブリデーロープライス戦略」を導入している店舗に、消費者が流れるのではないでしょうか。いつまで続くかわからない物価高の中では、「いつでも安い」ことが消費者の安心につながるからです。
そして、消費者はこれまで手に取らなかった「PB商品」を試そうとするかもしれません。実は、スーパーの売れ筋商品の8割は「生活必需品」です。そこで小売企業は、リピーター獲得のために各メーカーと同等、もしくはそれ以上の品質の生活必需品を提供できるよう、日々改良を加えながらPB商品に注力しています。
前出の経営者は、「生活必需品に関しては、ブランドにこだわる消費者はそれほど多くない。一度使って品質の良さを実感できれば、再購入の可能性が高まる。したがって、新しいものにチャレンジしやすいこの物価高は、リピーター獲得のチャンスになる」と、その可能性を話してくれました。
幅広いモノの値段が上昇している米国とは違って、今の日本の物価高はあくまでコストプッシュ型のインフレであり、根強い「デフレ・マインド」の中での物価上昇です。日本の小売企業は長く続いたデフレ下で、いいモノを安く提供するための仕入れルートを構築しながら物流コストを低減し、商品開発にも注力するといった企業努力をしてきました。この努力が、今の物価高においても強さの条件になるのは間違いなさそうです。
ビジネスモデルの変換迫られる100円ショップ
では、デフレの勝ち組、100円ショップはどうでしょうか。
100円ショップの場合、商品企画会社とともに新商品のアイデアを練り、それを製造コストの安い海外で生産して、輸入・販売している会社が大半です。したがって、今回起きている「急激な円安」はもちろん、「輸入コスト増」「人件費高」「水道光熱費の高騰」などが全て業績の圧迫要因となります。そう、デフレとコロナ禍の勝ち組企業が一転、インフレの負け組企業になっているのです。
そこで、100円ショップを運営する企業はいずれも、内容量を減らしたり、素材を変更したりして価格を保とうとしてきましたが、それも難しくなり、現状では仕方なく値上げしたり、売っても赤字になってしまう商品を「売らない」といった決断をしているそうです。
ここで質問です。もし、これまで安くて「当たり前」だったモノが値上げされた時、あなたならどうしますか?
――残念ながら、「この値段だったら、スーパーで買った方がいい」と考える人も少なからずいて、来店客数の減少につながっていると言います。ここが、スーパーやホームセンターといった業態との違いなのでしょう。
100円ショップをはじめ、外食やアパレルなどでも「安さ」を武器に戦ってきた企業が日本にはたくさんあります。その企業群のおかげで我々の生活が守られてきた場面もたくさんありました。しかしながら、そういった企業が多く存在していることがデフレから抜け出せないひとつに要因ともされてきたのです。
世界的な物価高の中、これらの企業がさらなる値上げやビジネスモデルの変更に踏み切った時、日本も本当の意味でデフレから脱することになるのかもしれません。