海外からの富裕誘客強化を観光庁が今年の6月に打ち出しました。日本経済新聞は「京都のにぎわい再び、富裕層狙うホテルが続々」と特集をし、星野リゾートの星野佳路代表にインタビューを行いリゾートホテル経営から感じられる「世界に旅需要のマグマ」を伝えています。 アジアの富裕層観光、日本への富裕層の観光旅行、アジアの観光関連不動産投資などについてBridge Rock Consultingのマネージング・ディレクター、岩田雄さんに聞いてきました。

シンガポールの観光事情はいかがでしょうか?

シンガポールでは、8月29日からコロナのワクチンを未接種でも渡航の2日前までにPCR/ART検査で「陰性で、さらにコロナ治療をカバーする旅行保険に加入している」といった条件を満たしていれば、隔離なしで来星することができるようになりました(9月末日時点、詳細はこちらのサイトご参照)。地下鉄やバス、タクシーなどの公共交通機関を利用するときのマスク着用はまだ義務付けられていますが、それ以外ではマスクなしで出歩けます。

チャンギ空港も徐々にターミナルを開いて受け入れ能力を高めています。ただ空港関係者によりますと、シンガポールは中国大陸からの観光客が過去には大きな割合を占めていて、中国人の海外旅行がまだ制限されているので回復途上のようです。

欧米では今年の前半から「リベンジトラベル」という言葉で富裕層を中心に海外旅行が流行っているようです。シンガポールの街を歩いていると欧米人の旅行客がかなり増えた印象を受けます。

リベンジトラベルって?

CNNなどでも取り上げられていますが、コロナ対策で出歩けなかった鬱憤を晴らす海外旅行を指します。

鬱憤晴らしなので、富裕層のお金の使い方は半端では無いようです。欧州のホテル・コンサルタントがシンガポールに来て先日一緒に食事をしましたが、モルジブのホテルは1泊1000ドル、2000ドルの値段をつけても予約がたくさん入っている、と話していました。

日本経済新聞が「ルイ・ヴィトンのLVMH最高益」という記事が出ていましたが、鬱憤ばらし需要が追い風となったのでしょう。

日本にもたくさん外国人観光客が来そうですね。

私個人の意見としては、来ると思います。

「日本にはまだコロナの制限があるのか?」と何度も聞かれていますので、待ちわびている人は多いと思います。

円が安いこともあり、リベンジトラベル観光特需が来るでしょう。あるアジア株のファンドマネージャーは関東の私鉄株に興味を示していました。空港から東京への旅客需要が伸びるだろう、と見ています。また、関東近郊にある日本最大級のテーマパークも気になると言っていました。

また、日本の観光・宿泊業界にも興味を示していました。

どんなホテルが人気ですか?

私の周りで聞こえるのは「東京や大阪のビジネスホテル、それも買収金額が100億円以上が希望」というものです。投資家はアジアと欧州の機関投資家のようです。

不動産投資に伴う特別目的会社などのスキームを含めて考えると50億円未満の案件は収支が合わないと考えられているようです。また新しく建てる、建て替えるよりは既に営業中のホテルに対する投資希望とのことなので年金基金や保険会社、あるいはファミリーオフィスなのかなぁ、と推測しています。

マリオット、国内ホテル3割増に 地方観光に照準」と日本経済新聞が報道しました。これらのホテルなども投資対象となると思います。

新規開発は人気薄ですか?

そんなことはありません。京都やニセコでシンガポールの不動産会社がホテルやリゾート開発を行い、日本の銀行も融資を行っています。ニセコにホテル開発に適した土地がありますよ、別府にありますよ、沖縄にありますよ、という話も日本から聞こえてきます。

アジアの他の地域の富裕層向けホテル投資事情はいかがでしょうか?

タイのプーケットやサムイのホテル売買は活発なようです。先ほどのホテル・コンサルタントが欧州からシンガポールに来た理由の一つに投資物件を欧州のホテルチェーンのために探す、という目的もあります。

ベトナムのハノイ、ホーチミン、ダナンなどの不動産開発案件の話も聞こえてきます。ベトナムはホテルに限らず、オフィスビルとホテルの建設だったり新しく建てられた高級コンドミニアムの戸別売りだったりです。一棟のプロジェクトはだいたい30億円程度です。

モルジブに話を戻しますと昔は中国/韓国/日本からのハネムーン需要が多かったのが最近はインドとシンガポールからのハネムーンに限らない訪問が多く、また、欧州からもたくさん来ているそうです。

ところでモルジブのホテルの売買という意味では、数件あるとコンサルタントは言っていました。

案件規模はどの程度でしょうか?

日本円で40億円から100億円換算です。40億円のホテルは世界自然遺産の指定区域にあるホテルで20年前に建設されました。現在の欧州人のオーナーはモルジブに3つホテルを持ち、熱心に経営しているので手入れが行き届き、その値段と立地からコンサルタントは自分自身でも買いたい物件だ、と語っていました。現在のオペレーターとの契約も10年以上残っているのも魅力だそうです。

100億円近いホテルは完成間近でまだ営業していないホテルだそうです。開発業者は新しいプロジェクトを始めるためにこのタイミングで売却を検討しています。新しくホテルを作ることに生きがいを感じている方なのかもしれません。

モルジブは昔に比べて新しい建設許可があまり出てこないであろう、とコンサルタントは分析していましたので、お買い得物件だと言っていました。

ところで欧州のホテル事情はどうでしょう?ウクライナ戦争の影響はどうでしょうか?

コンサルタント氏によるとこの冬の欧州は生活面では厳しいだろう、と語っていました。そこに驚きはありません。

「ああなるほど」と思った話があります。

スペインのホテル経営者は今年の冬はかなりイケると見ているそうです。「自然体でもリベンジトラベル需要が期待できる上に、エネルギー価格高騰で寒さを避けるために観光客が押し寄せるだろう」と。

その通りになると、スペインだけでなく、イタリア南部、フランス南部、ギリシア、トルコなど地中海諸国のホテル需要は高まりそうです。昨年、地中海の海沿いホテルに投資し、改修やバックオフィスの強化を通して資産価値を高めることを目的とするファンドが投資家を募集していました。まだどの国も海外渡航が難しい時期だったのであまり見向きもされませんでしたが、今にして思えば面白いタイミングだったと思います。シンガポールの政府系ファンドなどこのファンドに投資した投資家は先見の明があったと思います。

「麦わら帽子は冬に買え」という投資の格言がありますが、実践は難しいです。

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この記事を書いた人

岩田雄

サウスカロライナ大学国際MBA、ウィーン経済経営大学国際MBA、修了。国際基督教大学卒業。

MBA終了後、東京でステート・ストリート信託銀行、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに勤務。ロンドンで日興アセット・マネジメント・ヨーロッパにて欧州/中近東のソブリンウェルスファンド、銀行、年金、保険会社、王族ファミリーオフィスなどに営業を行う。

その後、日興アセット・マネジメント・香港設立のため香港に転勤後、シンガポールの日興アセット・マネジメント・アジアに赴任。三井住友銀行シンガポール支店、J. Safra Sarasin銀行を経て2020年にコンサルティング会社をシンガポールで設立。

2023年4月にシンガポールのマルチファミリーオフィス、ファースト・エステート・キャピタル・マネジメント(First Estate Capital Management)の取締役兼ウェルスマネジメント部門のヘッドに就任。