急成長を遂げているIFAですが、開示されるデータが少なかったこともあり、その定量的実態はあまり知られていませんでした。2021年6月に株式会社アイフィナンシャルパートナーズが上場することとなり、その実態が初めて公表されました。従来からディスクローズを続けているあかつき証券や楽天証券のデータと突き合わせ、IFAの定量的実体に迫ってみましょう。

Ⅰ. 既存の証券会社からの人材流入で成長を続けるIFA市場

IFAの市場は着実に成長しています。日本証券業協会が公表している、金融商品仲介業者における証券外務員の数は2020年12月末で4264人となりました。この他に300名程度の個人営業者がいると言われており、全体では4500人を超える規模に成長しています。

その伸びは2018年から加速しており、2018年からの平均伸び率は11%と2桁となっています。証券会社に在籍する外務員の数はこの時期減少しており、IFAが受け皿になっている形になっています。

図表:金融商品仲介業者における証券外務員数の推移

図表:金融商品仲介業者における証券外務員数の推移
出所:日本証券業協会

加えて、第一種外務員がその伸びをけん引していることは注目されます。IFAの収入源としては、デリバティブを組み込んだ仕組債の割合が大きいのですが、第一種外務員しか販売が認められていません。第一種外務員は証券会社の中でも経験を積んだセールスであることが多いのですが、そうした優秀な営業担当者である第一種外務員がIFAに移るという流れが出来上がっています

Ⅱ. 金融商品取引業者から見たIFA

IFAを積極的にサポートしている証券会社は、SBI証券、楽天証券、マネックス証券、あかつき証券などです。とくにあかつき証券は、IFAビジネスからの営業収益がその他の収益を上回るほどになっており、セグメント情報としてIFAサービスを開示しているくらいです。

1. 富裕層をターゲットとするあかつき証券のビジネスモデル

開示のある2018年3月期以降、預り資産残高は急増しており、2021年3月末では1450億円を超えました。また営業収入も90億円を超え、預かり資産に対する営業収入(ROAUM)は上昇を続けて2021年3月期で9.1%になるなど、あかつき証券にとって高収益なビジネスとなっています。

図表:あかつき証券のIFA部門

図表:あかつき証券のIFA部門
出所:あかつき証券、あかつき本社公表資料

あかつき証券の契約外務員数は2021年3月末で733人です。12月末の日本証券業協会のデータと突き合わせると、16%程度のシェアになります。契約仲介業者に所属する契約外務員数は平均で7.7人(2021年3月実績)と比較的小規模です。また、契約外務員数は契約仲介業者数の伸びと同様に増加しており、新規仲介業者の獲得が収益の伸びにつながるという構図になっています。

図表:あかつき証券の契約仲介業者数と契約証券外務員数の推移

図表:あかつき証券の契約仲介業者数と契約証券外務員数の推移
出所:あかつき証券、あかつき本社公表資料

一人当たりの預り資産残高は増加を続けており、2021年3月末では2億円程度です。そこからの平均営業収入も順次増加しており、2021年3月期で12百万円程度となっています。

図表:あかつき証券の一人当たり預り資産、一人当たり営業収入の推移

図表:あかつき証券の一人当たり預り資産、一人当たり営業収入の推移
出所:あかつき証券、あかつき本社公表資料

2. 比較的小口口座を積み上げる楽天証券のビジネスモデル

楽天証券は預り資産残高と顧客口座数しか開示していませんが、預り資産残高は順調に増加し、2020年12月末で5万口座を超えました。一方で、1口座当たりの預り資産残高は2020年12月末で1300万円程度と小さく、あかつき証券とくらべて小口顧客を対象にする異なるビジネスモデルを展開していることが分かります。

図表:楽天証券の顧客口座数、預かり資産残高推移

図表:楽天証券の顧客口座数、預かり資産残高推移
出所:楽天証券公表データ

Ⅲ. 金融商品仲介業者からみたIFAビジネス

1. 2021年3月期に業績が急伸したアイ・パートナーズ

アイ・パートナーズフィナンシャルが上場のために東証に提出した書類によれば、アイ・パートナーズの売上高は2021年3月期に急伸、利益も大幅に増加しました。あかつき証券の説明でも、2021年3月期は、特に仕組債の販売が好調で業績が伸びたとあるので、同様の背景によるものと思われます。前期は、国内外、特に米国株が好調で、高いボラティリティを反映した高クーポンの債券を売りにした債券が多く販売されました。米国市場の変調があった今期は、1顧客当たりの売上が減少する可能性が高く、成長を維持するにはいかに新規のIFAを採用し、紐付けられる顧客を獲得できるかにかかっていると言えるでしょう。

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの業績推移

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの業績推移
出所:アイ・パートナーズフィナンシャル上場提出資料

2. ビジネスモデル分析

同社に所属するIFAの数は順調に増え、2021年3月末には187人となりました。これは日本証券業協会のデータと突き合わせると4%程度に過ぎません。一人当たり売上高は今期には前年比6百万円ほど増加し、2100万円となりました。この金額はあかつき証券のデータよりもやや高いですが非常に近く、アイ・パートナーズが富裕層向けビジネスに注力していることが分かります。

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの所属IFA数、一人当たり売上高

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの所属IFA数、一人当たり売上高
出所:アイ・パートナーズフィナンシャル上場提出資料

媒介する資産残高は増加を続けています。一方、IFA担当一人当たり資産残高は2017年3月末をピークに減少を続けており、多くの預り資産を獲得するIFAの採用が難しいことが分かります。

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの媒介資産残高、一人当たり媒介資産残高

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの媒介資産残高、一人当たり媒介資産残高
出所:アイ・パートナーズフィナンシャル上場提出資料

金融商品仲介手数料収入に対するIFAへの成果報酬比率は75%となっており、金融商品取引業者から受け取る手数料の3/4をIFAに支払う仕組みとなっています。

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの成果報酬比率の推移

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの成果報酬比率の推移
出所:アイ・パートナーズフィナンシャル上場提出資料

アイ・パートナーズフィナンシャルの場合、金融商品取引業者との取引シェアは楽天証券が50%を超えています。取り扱い証券に大きな差がないことから、一度頻繁に取引をするとそのフローに慣れて取引業者が固定化する傾向があります。

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの取引業者と取引シェア(2021年3月期)

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの取引業者と取引シェア(2021年3月期)
出所:アイ・パートナーズフィナンシャル上場提出資料

3. 財務構成の特徴

財務構成で特徴的なのは、売上に比べてバランスシートがコンパクトなことです。このことはIFA業者を開業するのに資金的な負担が小さいことを意味します。今後も多くのIFA業者が開業し、IFA業者の数は増加を続けると思われます。

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの売上高と総資産

図表:アイ・パートナーズフィナンシャルの売上高と総資産
出所:アイ・パートナーズフィナンシャル上場提出資料

一方で収入の3/4を営業員に還元するモデルは、固定費の負担が重く、規模の利益が働きやすいとも言えます。近い将来、多くの統合による大型IFAが生まれる可能性も十分にあるでしょう。

この記事を書いた人

WMJ編集部

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