◆世界から、日本だけが取り残されている
日本の給料が30年間横ばいであることに、いま改めて注目が集まっています。超富裕層の読者にとっては、最低賃金が980円だろうが1500円だろうが直接的に自分たちの生活には関係のない話だと思っているかもしれません。しかし、賃上げは日本経済全体に影響を及ぼし、グローバル視点で見た時に日本という国の価値を高める可能性があります。長年、議論されてきた「賃金引き上げが先なのか、企業が利益を生み出すのが先か」、「鶏が先か、卵が先か」この議論にそろそろ終止符を打つべき時期にきているのではないかと思います。なぜならば、他国は賃上げを先に行った結果、消費を促し、物価上昇に成功しているからです。
◆ドメスティックな思考回路が「どん詰まり」を招いた
12年からのアベノミクスでは、金融緩和で円安を引き起こし、物価上昇まで持っていくことを目標にしていました。だが、結局のところ、起きたのは円安まで。ものの値段は上がっていません。企業は円安で輸入物価の高騰を価格に転換することを考えながらも、消費者が離れることを恐れて、値上げに踏み切れずにここまできています。そのような状況であることから、人件費である「賃上げ」に手を付けることなどできるはずがないのです。海外と比べるとOECD(経済協力開発機構)の調査によれば、2019年における日本人の平均年収は3万8617ドル。米国(6万5836ドル)、ドイツ(5万3638ドル)など先進国から大きく下回っており、韓国(4万2285ドル)にまで抜き去られてしまっています。ドメスティックな思考回路が「どん詰まり」を招き、結果、日本経済だけが取り残されている状態です。国内経済の循環だけを見ていれば、私たちの生活にはほとんど影響を感じないでしょう。しかし、グローバル企業が日本でモノやサービスの値段をグローバルな基準で提供している場合も多いです。富裕層の読者の皆様であれば、例えば、車や時計、ハイブランドの洋服など、ここ数年で値段が少しずつ高くなったと感じていませんか。日本の給与水準と各国の給与水準にさらに差が拡大していけば、日本が海外からモノを購入する力がさらに劣っていきます。「人件費を削減して、できるだけ安い価格」で提供することが美徳とされる日本の文化。企業努力の結果に、素晴らしいサービス、商品があるのですから、堂々と胸を張って「値段」を提示していけばいいと思います。簡単にそんな世の中にならないことは分かっていますが、そろそろ、耐えて、すり減らすのは辞めにしたい。
◆日本を見捨てる富裕層
2011年10月8日発売された、雑誌「日本を見捨てる富裕層」(ダイヤモンド社)は今でも語り継がれる名作号です。当時のことを思い出してみましょう。2011年と言えば、過度な円高、株安、震災、放射線、日本の財政破綻懸念と「ジャパンリスク」に見舞われていました。リスクに敏感な富裕層たちは日本に見切りをつけ、保有資産を海外に逃避させたり、移住者も増加したりしていました。シンガポール移住する人も多かったようです。今は、円安、物価安、賃金安。2011年の時を「表面的な危機」だとすれば、現状の日本は知らず知らずのうちに「地盤沈下」が進んでいるとも言えそうです。超富裕層の皆様は、このあたりまで俯瞰して資産を守る手段を考えるべきでしょう。