「情報銀行」は生活者を豊かにするのか
GAFAに代表される巨大プラットフォーマの出現により、暮らしは便利になったものの、私たちの意図とは異なる形でパーソナルデータが利用される現状を目にすることが多いようです。そこで、いま、日本の企業群が立ち上がり「真の意味で私たちの生活を豊かに」するために連携をはじめています。
2018年より総務省、経済産業省が連携して、個人の了解を得たうえで、個人のデータの流通・活用を進める仕組みである「情報銀行」の社会実装を推進しています。2021年以降、この市場はより本格化すると見られています。明治大学専任教授 野田稔氏によれば、「日本人は、日本の企業が連携してパーソナルデータを扱うと聞くだけで、どこか“予期不安”を持ち、抵抗感を持つ人もまだ多いです。しかし、様々な場所に散らばっているデータを統合・流通させることによって、消費者の生活や企業のビジネスに大きなベネフィットをもたらす可能性がある」と話します。情報銀行は“人生のコンシェルジュ”として寄り添うことができるのです。パーソナルデータを預けることで、ユーザーが自分自身でも気づいていない可能性について提案することまでもできるようになります。
日本の「礼」「倫理観」が国際競争力
本質的な経済のトレンドを捉えるキーワードに、日本人が世界に誇る「倫理観」や「礼」の精神があると思います。日本人の行動が、世界の人々を感動させる事例は数多くあります。例えば、アメリカで最も伝統と権威あるゴルフ大会の一つ、マスターズ・トーナメントにおける松山英樹選手の優勝は感動を与えました。その背景に、もう一つ大きな話題になったのが、松山選手を支えた早藤将太キャディーの「お辞儀」です。試合後、早藤キャディーが記念のため最終ホールのピンから旗を取った後、帽子を脱いでコースに一礼する姿が、ニュースで報道されネットでも広く拡散されました。日本人らしい礼儀正しさだけではなく、彼のゴルフへの深い愛と感謝、リスペクトを感じて涙が出たといったコメントが続出しています。CNNでは、このお辞儀こそが、日本人の悲願をついに実らせた松山選手の勝利を象徴していると報道しています。我々がまだ気付いていないだけで、日本独自の「倫理観」には、人の心を打つ力があるのです。これが、日本の強みではないでしょうか。日本らしさを大切にした、サービスこそが、真の意味で生活者を豊かにすると考えいます。なぜならば、次に述べるように、人類の幸福度は一定(プラトー)に達し、経済的豊かさを手に入れた成熟した社会において、人類が次に欲しくなるものこそが、「最も価値が高い」ものになります。このステージにおけるサービスを提供できた者が、「次の時代の覇者」となると考えています。私の認識では、まだ、ここに当てはまる企業は出てきていませんが、GAFAは恐らくここを見据えているのではないでしょうか。
3フェーズ、私には世界がこう見えている
投資のトレンドに乗る秘訣は「無謀な戦い(投資)を挑まず、勝てる相手(投資)に勝つこと」です。無駄な血(損失)を流さないように、勝てる分野はどこかを知ることで、戦わずして勝敗を決めることに繋がります。人類は今、大きな「社会的課題」(第1フェーズ)である「環境問題」と「効率化」のに直面しています。我々が思うが儘に歴史を積み重ねたことで地球が悲鳴をあげており、この先も人類が永続的に存続するために持続可能な社会を作る必要性に迫られています。そこで「SDGs」「グリーンエネルギー」「EV(電気自動車)」というテーマの柱が立ち上がっています。人類は経済成長という目的を果たし、幸福度もプラトーに入っています。今のステージで求められているものが「効率化」であり、解決するための「技術・手段」(第2フェーズ)が「5G」「DX」「半導体・パワー半導体」「セキュリティ」です。これらの技術進歩を伴いながら、私たちは「未来都市」(第3フェーズ)に向かっています。しかし、国内の議論は第2フェーズの「効率化」にばかり焦点が当たっています。企業は、今の段階から第3フェーズを見据えた行動が求められるのは間違いないでしょう。
超富裕層は「第3フェーズ」を見るべき
特に、株・投資で注目されるものは「技術・手段」(第2フェーズ)に関連する銘柄です。しかし、その企業が「どこに向かおうとしているのか」(第3フェーズ)、長期的なビジョンを感じなければ投資する必要はないでしょう。私たちは、全てを手にしながら生きることはできません。成功を手にするためには、「捨てる」「手放す」勇気が必要です。ビジネス上では、サイコパス気質を内に持つ人間が成功を収めているケースを多々見かけます。冷静な分析のもとリスクを取りに行き、感情に流されずロジック重視で利益を取りに行く、必要ないものはバッサリ切り捨て、迅速な選択ができるサイコパス気質は「投資スタンス」にも通じるものがあります。
+αヒューマニティ、ネクスト・ヒューマニティ・シティ
前述の「未来都市」は既存の「スマート・シティ」とは異なる概念です。「スマート・シティ」は「効率化」と「環境」がキーワードであり、IoTの先端技術を用いて、インフラ・サービスを効率的に管理・運営し、環境に配慮した新しい都市のことです。私は「スマート・シティ」の定義に、+αヒューマニティ「価値」向上の要素が加わった「未来都市」=「ネクスト・ヒューマニティ・シティ」たる概念が必要だと考えています。技術的な快適さと経済的な富を得た先に、真の意味で豊かさを感じる社会を人類が望んでいるからです。人類は、「人間性の本質に回帰のフェーズ」に入っています。例えば、努力してしか得られない時の高揚感・心の充実、あるいは、積み重ねた先にしかない信頼、文化的な土壌、健康、永遠の寿命…。言い換えれば、「精神的報酬」を得られる社会を求めているのです。
日本企業はGAFAを超えられるか
日本版GAFAになり得るプラットフォームの可能性を秘めているのが、「Woven City」(ウーブン・シティ)です。トヨタは静岡県裾野市に今年着工したのスーパーシティ「Woven City」の中で、実際に街を作り、その中で人々が現実の生活を送りながら、自動運転や次世代の技術を実証して生活します。5G、DX、非接触、MaaS、自動運転、セキュリティなどの最新のテクノロジーは、サスティナビリティを前提として、全てスーパーシティで実証していくことになります。また、前述の日本独自の「情報銀行」の取り組みもGAFAに対抗した動きになります。日本版の未来都市が成功することで世界のモデルケースになり、日本発のプラットフォームを世界の都市へ売り込んでいくこともできるでしょう。グーグルは20年5月にカナダのトロント市で計画していたスマートシティ・プロジェクトから撤退をしています。日本発のプラットフォームが食い込めるチャンスがあるのです。「ヒューマニティの価値向上」の概念まで包括して、突き進んでいく日本企業の存在に期待したいです。