私は商品市場、とりわけシカゴ穀物市場において長期に亘りトレードを行っているトレーダーです。皆さんにとって商品先物市場はあまり馴染みのない市場とは思いますが、株式市場などと同様、資産保全・構築を可能とする魅力のある市場ですので、私のコラムを通じてその魅力を少しでも感じとっていただければ幸甚です。
参考までに米国の代表的な株価指数S&P500、ナスダックと世界各地で取引されている商品の総合的な値動きを示すCRB指数との対比表を掲載させていただきます。株価とコモデティ指数は短期的には逆行することもありますが、長い目でみた場合は同一方向に進んでいるところからみて、商品市場といいましても特異な市場ではないということがお分かりになると思います。
■株価指数とコモデティ指数の対比
今回のコラムでは私の約30年間の商品先物市場でのトレード経験から学びとった相場心得なるものを披露させていただこうと思います。この心得は商品先物市場のみならず、どの市場においてもあてはまる事柄であることを確信しています。
1. 損切りの重要性について
タイムリーに損切りすることは相場や投資を行う際のイロハであると同時に、最も重要なことでもあります。相場や投資で常に利益を出すことは不可能であり時に損失が出ることもありますが、問題はその損失の出し方にあります。自らが保有する株やポジションは実に可愛く損が大きくなっても放置してしまいがちとなりますが、マイナスになった場合は大怪我をする前に適時に損切りを行い、そのマイナス幅を最小限にすることが相場や投資の極意といっても過言ではありません。
相場の世界で勝ち組になるのは全体の5%程度と言われています。その勝ち組の人たちは負けの時の損失幅は少なく勝ちの時の利益幅が大きくなる傾向にあり、負け組はそれとは真逆の傾向、いわば勝ち組は低リスク・高リターン、負け組は高リスク・低リターンを目指していることとなります。
どちらが良いかは一目瞭然です。損切りは心情的に実行しにくい行為ではありますが、商品先物市場のトレードにおいてはストップロス注文というオーダーが存在し、玉を建てたと同時にストップロス注文をするだけですので、心理面に左右されることなく損切りすることは至極簡単です。
一方、利益は伸ばすだけ伸ばした方が良いので利食いの注文はできる限り我慢するべきです。大半の負け組はこれとは逆に利食い注文だけして小さく儲け、一方、損がでた時は野放しにして損を膨らませるだけ膨らませ、またはナンピンをしてリスクを増大させる方向に動きがちです。
そして最終的には我慢ができなくなって大きな損失幅をともなう損切りを行う、または、運良くその後好転しプラスサイドになった暁には、少し利が乗った時点で手放すといったやり方、つまり、先ほど述べました高リスク・低リターンの取引を、ほぼ自覚症状なしにしてしまっているように思います。繰り返しになりますが、適時の損切りは相場の世界で生き残るためのマスト・アイテムです。
2. 負けを恐れてはいけない
商品先物市場のトレードは経験がないという方がほとんどだと思いますが、まずは1枚でも良いので玉を建ててみることです。そして決して負けを怖がってはいけません。
柔道では受け身、スキーでは転び方をまず習うのと同様、初めて参入する市場ではうまい転び方(負け方)を身につけることから始める必要があろうかと思います。故野村克也氏が生前良くいわれていた「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とは、負ける時は負けにつながる必然的な要因があるということであると解釈されます。
負けることは非常に悔しいことではありますが、小さな損失を多く出すことが将来のトレードに役立つと前向きにとらえたいもの=敗因がわかればその後の勝率は自ずと上がってくるというものです。
3. ファンダメンタルズに基づく取引について
この点につきましては賛否両論があるかもしれませんが、私自身はファンダメンタルズに基づいてトレードすることは丁半バクチをやっているようなものであると考えています。
ファンダメンタルズは長期的なトレードに活用されることが多いと思いますが、昨今のような短期間で激しく動く相場付きにおいてはファンダメンタルズに基づく長期投資・トレードは不向きであるということがまず一点。そして何よりもファンダメンタルズの予測は不可能であるということです。
万人に知れわたっているファンダメンタル要因はすでに相場に織り込まれているため、将来的なファンダメンタルズを予想して投資やトレードを行うこととなりますが、物事の未来は神のみぞ知る事柄です。
皆さんに最も馴染みの深いと思われる株式市場を例にとってみますと、個別銘柄の取引を行う際に、まずはその企業の業績に着目すると思います。
その時点の業績や業績見通しはすでに相場に織り込み済み、その業績見通しの将来的な上ブレ・下ブレがその後の株価の動きに影響することとなりますが、将来的な業績推移はその会社のトップでもわかりにくいであろうし、ましてや投資家にはわかりえない事象ですので、株式市場にとり代表的なファンダメンタルズである企業業績予想に基づいた株の売買はインサイダー情報でもない限り無理があるということとなります。
また、ファンダメンタルズに基づいた投資やトレードは大きな損失を伴いやすいと言うことができます。一例を申し上げますと、ある企業の業績を研究に研究を重ねて予想したとしましよう。その業績予想に基づき株を売買しましたが、その業績予想がはずれ相場が逆にいってしまった場合、貴方だったらどうするでしょうか? その業績予想に費やした時間が長ければ長いほど「自分は間違っていない、間違っているのは相場である」と考え、多くの方が損切りを遅らせてしまうのではないでしょうか?
私はファンダメンタル要因に基づくトレードや株式の売買は百害あって一利なし、お金が有り余っている一部の大金持ちの特権であると考えています。その唯一といっても良い活用方法は、ある企業の最新の業績がでてきたとして、その業績発表後にその企業の株価がどのように動いたかにより相場の短期の方向性が見極めることが出来るということです。
例えば市場予想よりも良い決算内容が発表されたにも関わらず発表後に相場が下がってしまった場合は短期の相場の方向性は下向きであると判断ができます。
上記3点について目から鱗が落ちたと感じていただいたとするならば、その方は投資や相場の成功者に一歩近づいたことになろうかと思われます。
次に玉の建て方・仕舞い方についてまとめてみました。
4. 玉の建て方・仕舞い方(10箇条)
1. ナンピンするべからず
相場が建て玉と反対方向にいってしまった場合の買い増し・売り増し、すなわちナンピンはリスクを増やすだけの行為であり避けるべきと考えます。
2. 逆張りは出来るだけひきつけてから建てるべし
昨今のようなオーバーシュートに次ぐオーバーシュートが日常茶飯事的に起きるような相場付きで逆張りを行う場合、建玉は出来る限り慎重に行った方が無難です。 また、出来る限り慎重に玉を建ててナンピンをしないわけですから、逆張り時の最初の建て玉は必然的に多めとなります。
3. 順張りは間髪いれずに建てるべし
順張りは間髪をいれず成り行きで建て玉を行った方がよいということ、相場が一方向に向かいやすい昨今の相場付きにおいてはなおさらです。
4. 建て玉はピラミッド型に行うべし
相場が建て玉と順方向にいった場合、最初の建て玉よりも少な目の玉を買い増しまたは売り増しする、いわゆる「乗せ」は理想的な手法です。
5. 建て玉の保有期間は予め決めておくべし
玉を建てたら予め保有期間を決めておき、その期間内で必ず手仕舞いすべきです。 例えば、デイトレードと決めたトレードを益がでていないからといって翌日以降にポジションを持ち越さないことです。
6. 利食い売りは段階的に行うべし
利食いはできるだけ利を伸ばすという観点から段階的に細切れに行った方が良いということです。
7. 損切りは全玉を脱兎のごとく行うべし
損切りはできるだけ損をミニマイズするという観点から全玉を脱兎のごとく行うべきです。
8. 損切りオーダーは取り消しするべからず
損切りの注文をいれた後、その損切り価格に近づいてきたからといって、そのオーダーを取り消すことはあまりすすめません。
9. 両建てするべからず
建て玉と逆の方向に相場がいってしまった場合に新規に反対売買するいわゆる両建てはまったく意味がなく、両建てするのであれば損切りして、あらたな気持ちで相場に臨んだ方が良い結果をもたらすこととなります。
10. ストップオーダーを積極的に活用すべし
ストップオーダーは損切りの時に用いるだけではなく、トレイリングストップなど利益確定時にも活用できる便利なオーダー形式であり大いに活用すべきです。