不動産投資では、もっともポピュラーなのは、賃貸住宅の購入です。10億円の不動産資産を作るのためには、ワンルームマンション(区分所有)を1つずつ購入するのは、かなり面倒なことになりますので、1棟モノのレジを購入するというパターンになります。

1棟モノの賃貸住宅の購入において最も重要なことは、「賃貸住宅需要が旺盛なエリアの物件を買うこと」、これは外せません。

いうまでもなく、賃貸住宅需要は、人口や世帯数の動向が大きな要因となります。1棟モノ賃貸住宅では、ワンルーム主体の物件が多いと思いますが、ワンルーム需要は、単身世帯数の動向が大きく左右します。こうしたことから、1棟モノ賃貸住宅への投資を行おうとお考えの方にとっては、世帯数の動向に加えて単独世帯の増え方についても長期的に見ることができる国勢調査は重要なデータと言えるでしょう。

さて、21年6月25日、2020年に調査を行った国勢調査の速報値が発表されました。今回はこの速報値をもとに解説してみたいと思います。

国勢調査とは

国勢調査は1920年(大正9年)に開始され5年に1度5の倍数の年に行われる、日本で最も重要とされている統計調査です。この調査は、日本人に加えて日本に住む外国人に対しても行われます。調査集計項目は、人口・世帯数、その他として男女の別、出生の年月、就業状態、従業地または通学地、世帯構成、住居の種類、住宅の建て方などで、調査結果は、行政の政策、各種法令の制定その他様々な事に利用されます。

ここでは速報結果を用いて解説します。確定値がでると、若干修正される可能性もありますので、その点はご承知おきください。速報は、人口や世帯に関する集計結果のみが公表で、その他の集計は21年11月頃から順次公開予定のようです。

人口減少スピードは遅くなっている

2020年10月1日時点における日本の人口(外国人含む)は、約1億2622万人で前回調査(2015年)に比べて約86万8000人減少しました。

減少幅は、マイナス0.7%で前回の減少幅(2010-2015年)がマイナス0.8%でしたので、それよりも減少幅が小さくなりました。

5年ごとでみる人口減少は2回連続ということになります。前回の減少人口がマイナス約96万2000人でしたので人数でも減少幅が少なくなっています。これは外国人居住者が増えていることが要因のようです。

 

都市部に人口は集中

近年の国勢調査における人口集計の特徴は、大都市部への人口集中です。

東京都の人口は約1406万人(11.1%)、神奈川県924万人、埼玉県734万人、千葉県628万人で、首都圏1都3県の人口は3693.9万人で、全人口の29.3%と3割近くが首都圏に住んでいることになります。1都3県に住む人は、この5年で約80万人増加しました。なかでも、東京都は2010-15年の増加幅は2.7%でしたが、2015-20の増加幅は4.1%となり、増加幅が大きく伸びました。

また、近年人口増加が目立っていた滋賀県や沖縄県、愛知県では人口増加の幅が小さくなり、勢いに陰りが見えた状況です。首都圏への人口集中が加速度的に進んでいることがうかがえます。全国では、9都府県が人口増加で、残り38道府県の人口が減少しています。

「狙うべきエリアは、首都圏に絞っている」という投資家が多いのもうなずけます。

世帯について

次に世帯の集計結果です。

2020年10月1日時点での日本の世帯数は約5572万世帯、この5年で約227万1000世帯増加しました。増加率はプラス4.2%となっています。

世帯数は、一貫して増加しており、前回(2010年―15年)の増加幅は2.9%でしたが、今回の増加幅は4.2%と大きくなりました。これは核家族化がさらに進み、加えて単身世帯がかなり増加していることが要因だと推測されます。1世帯当たりの平均構成数は2.27人となっており、一貫して減少しています。1995年調査で初めて3を下回りましたが、この25年でさらに世帯構成人員が減っている状況が浮き彫りとなっています。

世帯数と賃貸住宅需要

住宅需要は人口以上に世帯数が大きな要因となります。人口減少が進む日本ですが、世帯数は増加しており、また世帯数の増加幅も大きくなりました。

また単身世帯の60~75%(地域により異なる)程度は賃貸住宅に暮らしています(今回調査速報版では結果公表がないため前回調査の数字)。世帯数の増加の大きな要因は単身世帯の増加だと思われますので、今後も賃貸住宅需要は増えるものと思われます。

超核家族化=単身世帯化が進む東京都

東京都では1世帯当たり人員は1.95人と史上初めて2を下回り、東京に住む単身世帯の多さがうかがえます。就職・進学で東京への人口流入がますます増えているのはご存知のとおりで、こうした方々のほとんどがワンルームを中心とした賃貸住宅に住んでいます。また、東京を中心とした大都市圏では晩婚化、未婚化にも拍車がかかり、こうした方々の多くが賃貸住宅に暮らします。

世帯構成人員の減少は、そのまま賃貸住宅需要の増加に結び付いていると言え、東京を中心とした首都圏のワンルームマンション需要はますます高まるでしょう。

狙うべきエリアは、首都圏とくに東京中心部やその他周辺部(横浜・川崎、船橋、川口、大宮・・)といったエリアに限定してもいいかもしれません。

この記事を書いた人

吉崎 誠二

不動産エコノミスト
社団法人住宅・不動産総合研究所 理事長 
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。

【著書】
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。

【レギュラー出演】
ラジオNIKKEI「吉崎誠二のウォームアップ840」
ラジオNIKKEI「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演