ビットコインや暗号資産のユースケースは、金融機関や個人投資家の領域だけにとどまりません。近年は、上場企業がビットコインを財務資産として保有する動きも広がっています。代表例が、ビットコインを主要な準備資産として保有してきたStrategy、旧MicroStrategyです。2024年のビットコイン半減期前後には、同社のような「ビットコイントレジャリー企業」への注目が高まり、企業のビットコイン保有そのものが株式市場のテーマにもなりました。

もっとも、企業の本質は価値創造と付加価値提供にあります。単にビットコインを積み立てて株価上昇を狙うだけでは、企業本来の役割から外れてしまいます。今後は、ビットコインを「持つ企業」ではなく、「どう活用する企業か」が問われる時代になるでしょう。本稿では、企業におけるビットコイン活用の現在地と、今後の可能性を整理します。

2024年半減期と「ビットコイントレジャリー企業」

2024年4月、ビットコインは4度目の半減期を迎えました。半減期は、マイナーに報酬として配られるビットコインの量が半分になるイベントであり、過去には価格上昇サイクルと結びつけて語られてきました。2024年の半減期では、現物ビットコインETFの登場も重なり、個人投資家だけでなく機関投資家や上場企業の動きにも注目が集まりました。

その中で象徴的だったのが、ビットコインを企業財務の中核に据える「ビットコイントレジャリー企業」です。Strategyを筆頭に、企業が資産の一部をビットコインに振り向ける動きは、投資家に強いインパクトを与えました。企業がビットコインを保有することで、株式市場を通じて間接的にビットコインへ投資できるという見方も広がりました。

ただし、ここで冷静に見ておきたいのは、ビットコイン保有はあくまで「企業財務の一手段」にすぎないという点です。企業の本質は、顧客に価値を提供し、利益を生み、事業を継続的に成長させることにあります。ビットコインを保有するだけで企業価値が高まるわけではありません。むしろ、保有目的、財務耐性、資本政策との整合性が説明できなければ、単なる相場連動企業と見なされるリスクもあります。

投資家にとっても、「ビットコインを持っているから魅力的」という単純な判断では不十分です。その企業がなぜ保有するのか、どの程度の比率で保有しているのか、本業とのシナジーはあるのか。こうした視点が重要になります。

「ビットコインを買えば株価が上がる」時代は続かない

ビットコイン価格が上昇局面にあるとき、ビットコインを大量保有する上場企業の株価は、ビットコイン価格に連動するように上昇することがあります。これは、投資家がその企業を「ビットコイン連動株」として評価するためです。特に暗号資産を直接保有しにくい投資家にとって、上場企業の株式を通じてビットコインの値動きへアクセスできる点は一定の魅力があります。

しかし、長期的には「ビットコインを買ったから株価が上がる」という単純な構図は薄れていくでしょう。企業が収益不動産や有価証券を保有することは珍しくありません。現金の一部を外貨や債券、株式で保有することも、企業財務では一般的な判断です。同じように、ビットコイン保有が一般化すれば、それ自体は特別なニュースではなくなっていきます。

むしろ今後問われるのは、ビットコインをどう活用しているかです。単なる積立なのか、インフレヘッジなのか、国際決済や資本政策との連動なのか、あるいは株主還元やブランド戦略と結びついているのか。企業側には、保有目的とリスク管理について、より丁寧な説明が求められるようになるはずです。

安易なビットコイン積立ブームが過熱すれば、投資家保護や開示の観点から規制が入る可能性もあります。とりわけ、実態の乏しい企業がビットコイン保有を材料に株価上昇を狙うようなケースが増えれば、市場は必ず警戒感を強めます。

投資家にとって重要なのは、「企業が何を保有しているか」だけでなく、「企業が何を生み出しているか」です。保有資産の評価益だけに依存する企業は、相場が反転したときに脆さを露呈します。

投資家がビットコイン積立企業に注目する理由

日本では、暗号資産を個人で直接売買した利益は、原則として雑所得に区分され、所得水準によっては税負担が大きくなります。そのため、富裕層ほど暗号資産の直接保有には慎重になる傾向があります。価格変動リスクだけでなく、税制、申告、相続、管理の複雑さも判断材料になるからです。

そこで生まれるのが、ビットコインを保有する上場企業の株式を通じて、間接的にビットコインの成長性へアクセスしたいというニーズです。直接ビットコインを買うのではなく、ビットコインを財務資産として持つ企業の株式を保有する。これは、証券口座を通じて管理できるという意味で、投資家にとって扱いやすい選択肢になり得ます。

特にNISAの成長投資枠などで対象となる上場株式を購入できる場合、ビットコインそのものではなく、ビットコイン関連企業の株式を保有するという発想が生まれます。もちろん、これはビットコインそのものへの投資とは異なります。企業固有の経営リスク、株価評価、需給、為替、業績なども影響するため、純粋な代替手段ではありません。

それでも、税務・制度・管理の観点から、間接投資には一定の合理性があります。特に富裕層の場合、個人、法人、資産管理会社、ファミリーオフィスなど、複数の器を使い分けながら資産を保有するケースが多いため、「どの器で、どの形でビットコインに関与するか」という設計が重要になります。

ビットコイン積立企業への投資は、単なるテーマ株投資ではありません。富裕層にとっては、暗号資産エクスポージャーをどのように資産全体へ組み込むかという、ポートフォリオ設計上の論点でもあるのです。

企業財務にビットコインが入る時代

上場企業が現預金、債券、株式、不動産を保有することは一般的です。事業会社であっても、余剰資金の運用や資産保全を目的に、さまざまな金融資産を保有しています。その延長線上で、ビットコインが企業財務の一部に組み込まれる未来は十分に考えられます。

特に、インフレや通貨価値の下落を意識する企業にとって、ビットコインは「現金の代替」「長期準備資産」「国際的な価値保存手段」として検討される可能性があります。グローバルに事業を展開する企業であれば、単一通貨への依存を避ける観点から、ビットコインを分散資産の一部として位置づける発想も出てくるでしょう。

もっとも、企業財務にビットコインを組み込むには、多くの実務論点があります。会計処理、監査対応、価格変動リスク、取締役会での説明責任、内部統制、カストディ体制などです。単に「将来上がりそうだから買う」という判断では、企業財務としては不十分です。

また、企業が保有する以上、株主への説明も必要になります。なぜ現金ではなくビットコインなのか。どの程度まで保有するのか。価格が半分になった場合、財務にどのような影響があるのか。こうした説明ができて初めて、ビットコインは企業財務の一部として認められるようになります。

企業財務にビットコインが当たり前に組み込まれる時代が来るとしても、それはブームではなく、ガバナンスを伴う財務戦略として進むでしょう。

非上場企業にも広がるビットコイン財務

ビットコイン財務の考え方は、上場企業だけに限られるものではありません。むしろ、今後は非上場企業、オーナー企業、ファミリービジネスに広がっていく可能性があります。上場企業が財務資産としてビットコインを保有することが一般化すれば、非上場企業の経営者も同じように検討し始めるでしょう。

非上場企業では、余剰資金の運用が長年の課題です。定期預金、不動産、有価証券、保険、役員退職金準備など、これまでもさまざまな手段が使われてきました。今後はその選択肢の一つとして、ビットコインが加わる可能性があります。

特に、オーナー経営者にとって重要なのは、個人資産と法人資産の境界です。ビットコインを個人で持つのか、事業会社で持つのか、資産管理会社で持つのか、持株会社で持つのかによって、税務・相続・事業承継の設計が変わります。経営者にとっては、単なる投資判断ではなく、家族全体・グループ全体の資産設計の問題になります。

また、非上場企業の場合は上場企業ほど市場からの短期的な評価圧力を受けません。そのため、長期準備資産として少額からビットコインを保有するという考え方は、むしろ相性が良い面もあります。一方で、価格変動が大きいため、過度な比率で保有すれば財務安定性を損ないます。

企業財務におけるビットコイン活用は、今後、富裕層オーナーの資産防衛・事業承継・法人戦略と結びついていく可能性があります。

株主優待としてのビットコインという発想

日本企業に特徴的な制度の一つに、株主優待があります。これまでは商品券、QUOカード、自社商品、ポイント、食事券などが中心でした。今後、暗号資産が一般化すれば、株主優待としてビットコインを配布する企業が出てくる可能性もあります。

これは単なる話題づくりにとどまりません。株主にビットコインを少額配布することで、企業は自社の先進性やデジタル金融への理解を示すことができます。また、若い投資家やテクノロジー感度の高い投資家との接点づくりにもなります。特に、Web3、フィンテック、ゲーム、デジタルコンテンツ、金融教育などと親和性の高い企業にとっては、ブランド戦略としても活用余地があります。

投資家にとっても、配当や優待の一部としてビットコインを受け取ることは、資産の多様化につながります。特に少額のビットコインは、直接購入するほどではないが保有体験を得たい投資家にとって、興味深い入り口になります。

ただし、実務面の課題は多くあります。受け取り用ウォレットの整備、税務処理、本人確認、送付コスト、価格変動、優待価値の算定などです。さらに、暗号資産を受け取れない、あるいは受け取りたくない株主への代替手段も必要になるでしょう。

その意味で、ビットコイン株主優待は、実現すれば面白い一方で、制度設計とオペレーションの完成度が問われる領域です。

「ビットコイン・タイムカプセルNFT」の可能性

発展形として考えられるのが、「ビットコイン・タイムカプセルNFT」のような株主優待です。たとえば、NFTにビットコイン受取権を紐づけ、1年後、3年後、5年後まで引き出せない設計にする。短期売却ではなく、長期保有を促す株主優待として活用する発想です。

これは、単にビットコインを配るだけの優待とは意味が異なります。企業と株主の時間軸をそろえる仕組みになるからです。短期的な売買ではなく、企業の成長を長く見守る株主に報いる設計として、NFTや暗号資産を使うことができます。

たとえば、1年以上保有した株主には少額のビットコイン受取権、3年以上保有した株主には追加特典、5年以上保有した株主には特別NFTと組み合わせるといった設計も考えられます。これにより、企業は株主との関係性を「配当」や「優待品」だけでなく、デジタル資産を通じた体験価値として構築できます。

NFT優待はすでに一部企業で試みられていますが、ビットコインを組み合わせた設計はまだ発展途上です。だからこそ、企業のブランディングやIR戦略として余地があるでしょう。投資家にとっては、単なる金銭的リターンだけでなく、「その企業がどのような未来観を持っているか」を判断する材料にもなります。

もちろん、法務・税務・会計・技術面の課題はあります。しかし、株主優待を「モノを配る仕組み」から「長期的な関係性を設計する仕組み」へ進化させる発想としては、十分に検討価値があります。

企業価値を高めるのは「保有」ではなく「活用」

企業にとって重要なのはビットコインを持つことではなく、どう活用するかです。単にビットコインを積み立てて株価上昇を狙うだけであれば、それは企業本来の価値創造とは言えません。

企業は本来、商品やサービスを通じて顧客に価値を提供し、社会に付加価値を生み、利益を得る存在です。ビットコイン保有は、その活動を支える財務戦略にはなり得ますが、それ自体が事業ではありません。もしビットコイン保有だけが企業評価の中心になるのであれば、それは株式市場における一時的なテーマ化にすぎないでしょう。

一方で、財務戦略、株主還元、優待、顧客体験、ブランド形成、事業連携に結びつけられる企業であれば、ビットコインは新しい企業価値創造の道具になり得ます。たとえば、財務の一部として長期保有する、株主との関係性を深める、Web3領域の顧客体験を提供する、国際決済や事業連携に活用する。こうした形であれば、ビットコイン保有は単なる投資ではなく、企業戦略に組み込まれていきます。

投資家が見るべきなのは、「その企業が何BTC持っているか」だけではありません。むしろ重要なのは、その企業が、ビットコインを使ってどのような価値を生み出しているかです。

これからの企業活用編における本質は、そこにあります。

この記事を書いた人

中島宏明

経営者のゴーストライター
(書籍、オウンドメディア、メルマガ、プレスリリース、社内報、スピーチ原稿、YouTubeシナリオ、論文…)
  
2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。2014年に一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

マイナビニュースで、投資・資産運用や新時代の働き方をテーマに連載中。