富裕層にとっても、その国の税制優遇を活用した資産運用は重要です。中でも、2024年に制度改正された日本の新NISA(少額投資非課税制度)は、非課税投資枠の拡大や恒久化により、長期的な資産運用の選択肢として再び注目を集めています。では、この制度の中で「ビットコイン」が非課税投資の対象になる日は来るのでしょうか?世界的な制度変化や暗号資産の社会的地位向上を背景に、今後の可能性を探ります。

ビットコインがNISA対象になるための法制度の壁

日本のNISA制度では、上場株式、投資信託、ETFなどの「金融商品取引法上の有価証券」に該当する商品しか対象となっていません。一方、ビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)は、金融庁の定義において「資金決済に関する法律」の対象として扱われ、金商法への移行の可能性はあるものの現時点では有価証券とは別の枠組みで規制されています。

この「法制度上の非対称性」が、NISA制度の中にビットコインを組み込むうえでの最大の壁です。仮にビットコインを投資信託やETFなどの「証券化商品」として組み入れる場合でも、それをNISAで購入可能にするには、制度設計の大幅な見直しが必要になります。つまり、ビットコイン単体ではなく、ビットコインに連動する証券化商品の形での「NISA対応」が現実的な道となるでしょう。

米国ETF承認が示した「制度内ビットコイン投資」の可能性

2024年、米国証券取引委員会(SEC)は、BlackRockやFidelityなど複数の資産運用会社による現物ビットコインETFを正式に承認しました。これは、伝統的な証券市場の枠組みの中に、暗号資産が組み込まれた歴史的な一歩です。

これにより、米国ではNISAに類似する制度(ロスIRAや401(k)など)で、間接的にビットコインに投資できるルートが整備されつつあります。この流れは日本にも影響を及ぼす可能性が高く、すでにいくつかの国内金融機関も、ビットコイン関連ETFの導入に関心を寄せています。

重要なのは、ビットコインそのものではなく、「制度の中に収まるかたち」で投資可能にする仕組みの整備です。米国の先行事例は、日本における議論のたたき台になるでしょう。

富裕層にとっての「税制と流動性」の最適解とは

富裕層にとって投資判断のポイントは、値上がり益だけではなく、「税制優遇」と「流動性の確保」にあります。NISAは本来、長期投資による資産形成支援を目的として設計されており、株式やETFの配当・売却益が非課税になるというメリットがあります。

では、仮にビットコインがNISAの枠内で買えるようになった場合、その非課税メリットはどの程度インパクトがあるのでしょうか?
現状、ビットコインの売却益は「雑所得」として総合課税の対象となり、最高税率は55%に達します。これがNISAで非課税となれば、富裕層にとっては「キャピタルゲインの最適化」「流動性・換金性」の観点から非常に魅力的な選択肢となります。

しかし、ボラティリティの観点では、依然として株式や債券よりも不安定な面があるため、分散投資とリスクマネジメントが不可欠です。

日本におけるビットコインの普及と信頼性の高まり

かつては投機対象と見なされていたビットコインも、近年では「インフレ耐性」「デジタル・ゴールド」「インターネット上のネイティブカレンシー」「グローバル・ペイメントシステム」といった特性が認知されるようになり、国内でもその立場は変わりつつあります。特に若年層や資産家層を中心に、暗号資産に関心を持つ人は着実に増加しています。

加えて、暗号資産取引所の規制強化やカストディ制度の整備により、「信頼して預けられる環境」が徐々に整ってきました。ビットバンク、SBI、bitFlyer、コインチェックといった大手取引所も、セキュリティ対策や取引履歴の透明性を高めており、銀行系金融機関との連携も進行中です。

このような「受け皿の成熟」があってこそ、NISAなど制度内での取り扱いを求める声が現実味を帯びきます。

今後想定される政策転換とそのシナリオ

現時点では、金融庁や財務省、税制調査会において「NISAで暗号資産を認める」具体的な検討は公にはされていません。ただし、次のような条件が整えば、議論が進む可能性があります。

  • 米国やEUなど主要国での制度整備がさらに進展し、グローバルスタンダードとなる
  • 暗号資産の「長期資産」としての位置づけが確立される
  • 暗号資産ETFなどの証券商品化が国内でも進み、NISA制度との親和性が高まる

政府が掲げる「資産運用立国」や「資産所得倍増プラン」「個人金融資産の投資転換」の流れの中で、若年層だけでなく富裕層の新たな資産運用手段としてのビットコインが注目される可能性もあります。今後の法改正や税制議論の動向を注視しておきましょう。

この記事を書いた人

中島宏明

経営者のゴーストライター
(書籍、オウンドメディア、メルマガ、プレスリリース、社内報、スピーチ原稿、YouTubeシナリオ、論文…)
  
2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。2014年に一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

マイナビニュースで、投資・資産運用や新時代の働き方をテーマに連載中。