前編では、香港がファミリーオフィスの誘致を優先している理由を探り、その法制度や税制の優位性、そしてグローバル都市としての魅力を紹介しました。後編では、香港のファミリーリーダーたちの声を通じて、彼らが香港を選んだ理由、レガシーや事業承継計画の戦略をさらに深く掘り下げます。アジアで最大の超富裕層人口を有する香港は、超富裕層コミュニティからの説得力ある事例と洞察を提供し、資産保有者にとって貴重な参考例となります。

次世代を見据えた投資戦略
自由港であり資本規制のない香港では、外国為替取引、内外投資、資金の本国送還に制限がありません。香港のIPO市場も好調で、2025年上半期には世界のIPO会場としてトップとなり、44件の上場で1,071億香港ドル(約1兆9,700億円)を調達しました。これは、過去10年間で半期として2番目に高い資金調達額であり、香港は世界で最も資金調達額の多い拠点となりました。
AI、ブロックチェーン、デジタル資産、クリーンエネルギー、ヘルステックといった新興産業は、ファミリーオフィスにとって重要な関心分野です。香港は、中国のテクノロジーや新興産業の巨大企業への重要な玄関口であり、たとえばDeepSeekのような企業を通じて、同国のイノベーション主導の成長にアクセスすることができます。
200社以上のスタートアップに投資してきたベンチャーキャピタル企業Brincの創業者マナヴ・グプタ氏はこう述べています。
「香港は、東南アジア市場と中国本土市場の両方にアクセスできる素晴らしい発射台です。香港は未来に投資するための場所です。ここから事業を築き、成長させ、そして投資を守ることができます。ぜひ香港が何を提供できるのか見てみることを強くお勧めします。」
KGKグループ副会長のサンジェイ・コタリ氏も、香港が自分たちの家族の投資戦略で果たす重要な役割を認めています。
「香港は、我が家の資産の成長と保全において極めて重要な役割を果たしてきました。洗練された金融市場は幅広い機会を提供し、私たちは自信を持ってポートフォリオを分散することができます。香港の法制度は私たちの投資の安全を確保し、簡素化された規制環境は資産を効率的に管理することを可能にしています。この基盤は資産の成長を支えるだけでなく、経済的な変動に耐えるために必要な安定性を提供し、長期的な資産保全に大きく貢献しています」
次世代への資産承継
ファミリーオフィスの最も重要な目標のひとつは、世代を超えた資産の移転です。ランドマーク・ファミリーオフィスのCEO、キャメロン・ハーヴィー氏は、持続可能な資産計画へのアプローチについてこう説明します。
「資本の保全と成長のバランスを取ることは、円滑な世代交代を実現するために不可欠です。ガバナンス体制、税務の最適化、法的構造、金融教育、責任ある投資を通じて、家族の価値観を反映したレガシーを確実に継承します」
「持続可能な資産計画」は、世代間のバランス、長期的な資本成長、家族のレガシーの継続性に焦点を当てています。この総合的なモデルは、税務戦略、信託スキーム、法的保護、教育、投資哲学をひとつにまとめ、それぞれの家族の構造や価値観に適応できるよう設計されています。
ファミリーオフィスにとって、投資とは「どのようなレガシーを残したいか」を表明するものであり、この考え方は、単なるリターンよりも長期的で感情的な共鳴を重視する方向に変化しつつあります。
家族の精神と文化の継承──価値観とフィランソロピー
子どもへの金融リテラシー教育や、世代間の信頼を強化するための「ファミリー憲章」の策定も重視されています。たとえば、投資決定を担当する評議会を設置し、家族の規範を明文化することで、資産を生きたレガシーへと変える家族もあります。
これらの取り組みは、世代交代を円滑にするだけでなく、社会的責任感を育むことにもつながります。教育信託や慈善事業への資金配分により、資産は「守るべきもの」から「善のために活用するもの」へと認識が変わります。
ハリレーラ・ホテルズ会長兼CEOであるアーロン・ハリレーラ博士は、1930年代から香港に住む家族の代表です。約1世紀にわたり、ハリレーラ家の事業はテーラー業から著名なホスピタリティグループへと発展してきました。しかし、この道のりは決して平坦ではありませんでした。家族が100人以上に拡大するにつれ、世代ごとに合意形成がますます困難になったのです。博士はこう述べています。
「意思決定を機能させ、実行する唯一の方法は、優れたコーポレートガバナンスです」
「私たちは家族間の問題を取締役会からすべて排除しなければなりませんでした。取締役会や企業レベルで優れたコーポレートガバナンスを実施することこそが、調和を生み、世代交代の課題に対処する鍵です。そして私たちはそれを香港で採用しています」
ハリレーラ家にとって、フィランソロピーは非常に個人的なものであり、とくに教育分野に重点を置いています。この献身は、若くして香港に移住したものの、経済的理由で学業を終えることができなかったアーロン博士の父の経験に根ざしています。博士は振り返ります。
「父は、自分が受けられなかった教育の機会を人々に提供できることに非常に興奮していました。父の葬儀のとき、何人もの人が私のところに来て、『お父様にはお会いしたことはありませんが、彼がくださった奨学金のおかげで学業を修了し、キャリアを築くことができました』と言ってくれました。本当に素晴らしいことでした」
アーロン博士は、教育の機会を得ること自体が本質的に革新的な経験であるという哲学を強調しています。
ハリレーラ・グループの哲学は、ファミリーオフィスが資産管理を超え、価値観や社会的責任を世代間で伝えるためのプラットフォームになり得ることを体現しています。香港の法制度、文化、人材の融合は、このビジョンのための確固たる基盤を提供しています。
最近、香港では「Impact Link Online Portal(iLink Online)」というデジタルプラットフォームが開始されました。これは、フィランソロピスト、ファミリーオフィス、資産保有者を、高い社会的影響力と拡張性を持つ慈善プロジェクトと結びつけるためのものです。iLinkの戦略的パートナーは、世界をリードする慈善団体であり、iLinkコミュニティに対して思想的リーダーシップを提供し、ベストプラクティスを共有し、世界的なフィランソロピーの最新動向に関する洞察を提供しています。現在の戦略的パートナーには、Fondation de France Asia、ゲイツ財団、香港ジョッキークラブが支援するInstitute of Philanthropy、怡安賞基金会(Yidan Prize Foundation)が含まれます。これまでに、香港発のチェン・イエッセン・ファミリー財団(Chen Yet-Sen Family Foundation)を含む約50のファミリーパートナーがこのポータルに参加しています。
サステナブルなレガシー計画の世界拠点として
将来を見据えた家族にとって、香港は「守り」と「攻め」の両方を提供する拠点です。資産と価値観を次世代へどのように引き継ぐべきか──香港は、その制度、人材、文化の融合によって答えを提供してくれるかもしれません。
資産構造が国境、通貨、法制度を越えてますます複雑化する中、法的透明性とインフラが強固な都市は、単なる選択肢ではなく、戦略的な選択となります。香港は金融ハブを超えて、世代間資本の世界的な拠点へと進化しています。この都市において、ファミリーオフィスご設立にご関心がおありになる場合は、以下のフォームからお問い合わせください。
香港には活気があり強固な日本人コミュニティが存在し、日本人やそのご家族が働き、生活するのに理想的な場所です。市内には高品質な教育を提供する日本人学校やその他のインターナショナルスクールが多数あり、ご家族のみなさまにとって、スムーズな生活の移行を保証いたします。また、カジュアルな飲食店から高級レストランまで、本格的な日本料理店が豊富で、故郷の味を楽しむことができます。文化面では、香港は年間を通じてさまざまな日本関連イベントを開催しています。香港の心地よく、親しみやすい環境と広範な支援ネットワークにより、日本人はこの活気ある都市に容易に適応し、成功を収めることができるのです。
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