2024年のビットコイン半減期を迎え、市場には再び熱狂の兆しが広がっています。ブラックロックやフィデリティによるビットコインETFの登場、米国市場での大口機関の参入、そして暗号資産に戦略的に投資する上場企業の増加――こうした要因が、ビットコイン価格を押し上げる原動力となっています。しかし、この熱狂の裏側に潜む「構造的な脆弱性」に目を向ける必要があるでしょう。かつてのバブル崩壊を引き起こしたのは、取引所やプラットフォームの信用不安でした。では、2026年の次なる暴落はなにが引き金になるのか?本稿では、注目を集めている“ビットコイントレジャリー企業”の存在と、そのリスクをお伝えします。
なぜ企業はビットコインを積み立てるのか?
近年、上場企業が自社の資産としてビットコインを保有する「ビットコイントレジャリー戦略」が注目を集めています。特に米マイクロストラテジー社が大量にBTCを購入したことで、この戦略が一躍有名になりました。日本企業ですと、メタプラネットなどが有名です。その目的は様々です。インフレ対策として法定通貨の購買力下落をヘッジする企業もあれば、株主への話題提供やブランディングとして取り入れる企業もあります。
また、米国会計基準(GAAP)ではビットコインを減損会計対象とする制約があったものの、今では公正価値評価の動きも進んでおり、企業財務上の扱いも柔軟になりつつあります。しかし、その一方で、「本業とは関係ない資産に大きく依存している」というリスクは、依然として軽視できません。また、企業という公器の在り方として、社会に価値提供もせず、ひたすらにビットコインを積み立てるというのはいかがなものなのでしょうか。
ビットコイン半減期がもたらす“興奮と崩壊”のサイクル
マイニングを行うマイナーに対して支払われるビットコインの量は、約4年ごとの半減期によってまさに半分になります。これはマクロ経済における「貨幣の発行量」を意図的に引き締める仕組みであり、投資家の間では「希少性による上昇圧力」が期待されます。
事実、2012年、2016年、2020年のビットコイン半減期の翌年(半減期到来日から約500~550日後)には大きな価格上昇が起きています。
- 2012年に半減期到来、2013年のブーム後、2014年にマウントゴックス事件
- 2016年に半減期到来、2017年のブーム後、2018年にコインチェック事件
- 2020年に半減期到来、2021年のブーム後、2022年にFTX破綻
というサイクルがほぼ一定のリズムで繰り返されています。2024年に半減期が訪れ、今年2025年は「次のバブル」の年になると予想されます。では、その次に来る2026年にはなにが起こるのでしょうか?
過去のバブル崩壊に学ぶ暴落のトリガー
暗号資産市場の過去のバブル崩壊には、共通して「トリガーとなる事故」が存在します。2014年のマウントゴックスは、当時最大の取引所がハッキング(横領も)により破綻したことによる信用崩壊でした。2018年のコインチェックは、巨額のNEM流出。2022年のFTXは、世界有数の取引量を誇る取引所が自己勘定取引と粉飾によって崩壊したことによるものでした。
いずれも「市場の中核にある信用の崩壊」が、連鎖的な売りを呼び、価格暴落へとつながっています。今後も、何らかの“崩壊の引き金”が市場の急変を招く可能性が高いと見られます。
ETFとトレジャリー企業の決定的な違いとは
2024年以降、現物ビットコインETFの登場によって、個人・機関投資家がより規制された環境でビットコインにアクセスできるようになりました。ブラックロックやフィデリティといった世界的大手が管理するETFは、厳格なカストディ管理の下に運営され、ハッキングや横領のリスクは極めて低いといえます。
これに対し、ビットコイントレジャリー企業は本業の傍らで暗号資産を保有しており、企業によっては取引管理が甘く、資金運用に関する透明性も低いケースがあります。また、価格下落時に財務体質が悪化することで、自社株売却や保有BTCの投げ売りが起きるリスクも無視できません。
ETFが「受益者と運用者が分離された仕組み」であるのに対し、トレジャリー企業は「経営判断のリスクが直結する存在」であるという違いがあるのです。
本質的企業価値のないビットコイン積立企業
近年ブームのビットコイントレジャリー企業の中には、本業ではほとんど利益を生み出せず、財務基盤も脆弱なまま、ビットコイン価格の上昇を背景に株価だけが吊り上がっている例もあります。これらの企業は、実質的には「ビットコイン価格連動株」として機能しており、企業価値の本質を問えばバブルと言わざるを得ません。
また、日本においては、ビットコインETFをまだ購入できないこと、現物の暗号資産に対する税負担の大きさなどから、NISAの成長枠を利用してビットコイントレジャリー企業の株に投資しているという背景もあるでしょう。
そして、こうした企業に投資する一部の投資家も、企業の中身ではなく「BTC保有量」や「価格チャート」だけを見て取引している実態があります。このような市場の偏りは、相場全体が熱狂に包まれるほど危うくなっていきます。
2026年、次の“引き金”はビットコイン積立企業か?
過去のバブルでは、取引所やプラットフォームの崩壊が発端でしたが、次のバブルではこうした「企業側」からの信用不安が火種になる可能性もあります。たとえば、ビットコイン価格が急落し、トレジャリー企業の財務体質が悪化した場合、株価の下落と同時に保有BTCの売却が連鎖的に起こる――。このシナリオは、非常に現実的です。
2026年になにが起こるかはまだだれにもわかりませんが、「なにが起きるか」を冷静に想定し、備えることはできます。歴史は繰り返さなくても、韻を踏むものです。今後のビットコイン市場において、私たちが注目すべきなのは価格ではなく、背後で動く“信用の構造”かもしれません。