◆ウクライナ侵攻で「経常赤字と円安」が一段と深刻に

前回の連載では、「インフレリスクが高まるのであれば。やはり米国が利上げのスピードを加速させることも考えられます。であれば、今後数カ月は米ドルを下支えするものとみられます。ドル高のポジションを取るのもリスクヘッジになります」と述べました。その後、ドル高が一段と進み122円台にまで上昇しています(3月25日現在)。日米の金利差を背景にドル高・円安基調が続くと考えられていますが、実は、もう少し深刻な円安の側面が如実になっています。それは、財務省が3月8日に発表した1月の経常収支(速報値)が、1兆1887億円の赤字で2カ月連続の赤字となったことです。国の力を示す指標である経常収支の赤字が膨らんできた点は、日米の金利差拡大による円安よりも深刻度が増します。

◆日本の経常収支を分解

ここで、国の稼ぐ力を示す「経常収支」を年単位で分解してみましょう。

2002~2011年の10年間は貿易収支が黒字でしたが、12~21年の10年間では貿易収支が赤字化、あるいは黒字が大きく減少しています。その1つの理由が2011年の東日本大震災により、原子力発電を止め、火力発電の依存を高めたことでLNGの輸入量が増え、貿易収支が悪化したことが挙げられます。そして、現状の日本の経常黒字のほとんどは直接投資や証券投資を合計した第1次所得収支となっています。つまり、黒字の主役が貿易収支から第1次所得収支に代わっているのです。この第1次所得収支は2021年には20兆円規模です。第1次所得には大きな柱が2つあり、海外子会社のもうけである直投収益14兆7198億円と外国債券の利子などの証券投資収益9兆7659億円です。海外子会社のもうけである直投収益とは企業が日本企業が海外に進出して儲けている額です。かつての日本の製造業は国内で車や家電を作って、海外に輸出していましたが。今は、海外の工場建設やM&A(合併・買収)を積極的に行われた企業の行動が第1次収支の数字となって現れています。そして、外国債券の利子などの証券投資収益とはまさに、投資であり、海外証券投資の収益です。そして過去、メインだった貿易黒字は今や1兆7000億円です。日本は「貿易による稼ぎ」から「投資による稼ぎ」に振り替わっています。すでに日本経済は財の貿易やサービスによって黒字を積み上げるフェーズは終えており、これまで積み上げてきた対外資産による所得収支の黒字によって経常黒字が維持されている、いわゆる「投資立国」の状態です。ここまでがコロナ以前の日本の状況です。

◆年単位で経常赤字が常態化するか

コロナ以降、日本の置かれている状況に変化を捉えることができます。投資立国のはずである日本を月次ベースで分析すると、投資による儲けである第1次所得を貿易赤字が大きく食いつぶしており2ヶ月連続の経常赤字に転落しています。

日本は、貿易収支が赤字で経常収支が黒字である「成熟した債権国」だと言われてきましたが、コロナを経て、ウクライナ情勢の影響もあり、貿易収支、経常収支共に赤字である「債権取り崩し国」へ移り変わりつつあります。つまり、現在の「円安」が国力が弱まっていることを加味した動きなのだとすれば、事態は深刻さを増しているでしょう。富裕層の方々が資産をどこに振り分けるかを考える上で、日本の経常赤字が常態化するようであれば、ポートフォリオの組みなおしも近い将来に迫られるかもしれません。

この記事を書いた人

馬渕 磨理子

認定テクニカルアナリスト(CMTA®) 公共政策修士

京都大学公共政策大学院 修士過程を修了。法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。全国各地で登壇、プレジデント、週刊SPA!、Yahoo!ファイナンス、ダイヤモンドZAI、日経CNBCなど多数メディア掲載・出演の実績を持つ。現在は、ベンチャー企業で未上場マーケットのアナリスト・マーケティングを担当。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。

【連載等】
マネックス証券での連載、Yahooファイナンスの記事掲載、ラジオ日経の出演経験などがあり、『PRESIDENT』『週刊SPA!』『日経CNBC』『ダイヤモンドZAi』『Yahoo!ファイナンス』『週刊女性』『テレビCMマネックス証券』など多数のメディア出演