資産の多様化は、リスクマネジメントの要です。株や不動産、保険に続き、近年その存在感を高めているのがビットコインを代表とする暗号資産でしょう。特にビットコインは、価格変動リスクがある一方で、担保資産としての可能性にも注目が集まっています。本稿ではビットコイン・暗号資産のユースケース「銀行編」と題し、クリプト担保ローン(クリ担)やカストディなど、暗号資産が金融機関でどのように活用され始めているのかを解説します。
銀行が暗号資産を担保にローンを提供する時代へ
欧米ではすでに暗号資産を担保としたローンサービスが実用化されています。例えば米Silvergate Bankは、機関投資家向けにビットコイン担保ローンを提供していました(※2023年に事業縮小)。また、Galaxy DigitalやGenesis Tradingなど、銀行機能を持つ暗号資産金融企業がこの領域で先行しています。
ビットコインを担保にする利点は、売却せずに資産性を活用できること。これは富裕層にとって、含み益を維持しながら流動性を確保する手段となり得ます。
銀行の暗号資産カストディ事業
米大手銀行BNY Mellonは、2022年にビットコインおよびイーサリアムのカストディ(保管)サービスを正式に開始しました。これは金融機関が機関投資家向けに暗号資産を安全に預かる仕組みを提供するものです。
国内でも、デジタルアセットの信託会社の準備が進められています。日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社(JADAT)は、ビットバンク株式会社が有する最先端、国内最高セキュリティレベルの暗号資産管理に係るノウハウと、専業信託銀行グループである三井住友トラスト・グループが有する信託業務に係るノウハウを融合させたデジタルアセットに係る新しい資産管理サービス提供を目指す信託会社の設立準備会社です。銀行による受託保管の領域は、世界でも日本でも静かに広がっています。
ステーブルコインと銀行のBaaS連携
JPモルガンは独自のステーブルコイン「JPM Coin」を用いた法人間決済の実験を開始し、すでに一部商用化しています。これは銀行がブロックチェーン上でリアルタイム送金や信用供与を実現するモデルです。
また、アジアでは香港のZA BankがWeb3企業向けにオンボーディングサービスを提供するなど、BaaS(Banking as a Service)型の暗号資産対応銀行が登場しています。
暗号資産を活用した信用創造モデル
イーサリアムのような暗号資産は、スマートコントラクトを活用することで自動化された信用供与を可能にします。実際、AaveやCompoundなどの分散型金融(DeFi)プロトコルは、暗号資産を担保に新たな信用を創出しています。
一方で、これらのプロトコルが銀行法制と交差するには時間がかかるため、将来的には「DeFi × 銀行API」といったハイブリッドモデルが主流になる可能性があります。
ファミリーオフィスと暗号資産担保ファイナンス
富裕層の資産管理を担うファミリーオフィスでは、暗号資産を活用した戦略的ファイナンスが進みつつあります。スイスのSEBA BankやSygnum Bankなどは、暗号資産を担保に多通貨ローンを組成するサービスを展開。プライベートバンキングとの融合も視野に入れたユースケースが実現されています。
銀行のメタマスク対応とウォレット連携
欧州では、銀行APIとWeb3ウォレットをつなげる試みも始まっています。ドイツのN26やイギリスのRevolutは、ユーザーが自分の暗号資産ウォレットを銀行口座にリンクさせ、資産管理と送金の一元化を図る機能を実装中です。
このように、従来の銀行が暗号資産ネイティブなインフラへと統合していく動きも見逃せません。
資金調達におけるトークン活用
JPモルガンや三菱UFJ信託銀行(Progmat Coin)のように、法定通貨連動型トークン(ステーブルコイン)を用いた社債・資金調達の実証が進んでいます。これにより、機関投資家はブロックチェーン上で直接参加可能となり、利回りや透明性が向上します。
ステーブルコインは、銀行自身の資金調達基盤にもなり得るのです。ビットコインなどの暗号資産の社会的ステータスがより向上すれば、ステーブルコインだけでなくビットコインを用いた銀行自身の資金調達基盤にもなり得るでしょう。
富裕層にとっての銀行と暗号資産の関係
ビットコインを「保有するだけ」から「活用する資産」へと変える上で、既存銀行との連携は極めて重要です。信頼性・法制度・リスク管理体制が整っている銀行を通じて、富裕層はより戦略的に暗号資産を用いた信用創出や資産保全を実現できます。
また、日本でもWeb3対応銀行やデジタル資産カストディの法整備が進む中、暗号資産と銀行の融合は避けて通れない潮流となっています。
ビットコインや暗号資産が「銀行の外の存在」だった時代は終わりを迎えつつあります。これからの金融においては、銀行もブロックチェーンやトークン経済のゲートウェイとなり、富裕層の資産管理に新たな選択肢をもたらすでしょう。
次回はビットコイン・暗号資産のユースケース【証券・資産運用編】として、暗号資産ETFやトークン化資産の運用、クリプトヘッジファンドについてご紹介します。
出典:
Forbes「Crypto Lenders Are Backing Loans With Bitcoin, Ether, And Even NFTs」(2022)
Bloomberg「BNY Mellon Starts Crypto Custody Service」(2022)
CoinDesk「JPMorgan’s JPM Coin Processed $1 Billion Daily in Transactions」(2023)
Sygnum公式サイト「Crypto-Backed Loans for Professional Investors」

