ご自身も20代前半からイタリアに海外移住し、長年海外生活を続けている株式会社 La Quartaの小林雅之氏。現在は、富裕層の海外移住支援サービスを展開されています。今、富裕層に人気の海外移住先はどんな国(地域)なのか。移住しても数年で帰国してしまう移住者が多い中、どうすれば海外生活を続けられるのか。本稿では、海外移住のリアルをお聞きしました。

インタビュイー:株式会社 La Quarta 代表取締役社長・小林雅之氏

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インタビュアー:ゴーストライター 中島宏明

富裕層に人気の海外移住先

――本日はありがとうございます。まずは、富裕層にどんな国・地域が移住先として人気なのか教えてください。

小林雅之氏(以下、小林氏):弊社にお問い合わせを多くいただくのは、マルタやポルトガル、スペイン、モナコなどのヨーロッパ圏です。

マルタは公用語が英語ですので、言語のハードルが低いことも人気の理由です。また、お子様の語学留学としても人気です。お子様をマルタのインターナショナルスクールで学ばせつつ、ご両親も移住するケースです。

ポルトガルは、滞在日数のハードルが低く、市民権取得のハードルも低いため人気があります。現在は不動産の取得が条項から外れてしまったのですが、以前は投資用にアパートを買って運用もできるスキームがあり富裕層から好まれていました。

スペインは、国のイメージが良く、特に南のバルセロナやバレンシアが人気です。気候や生活リズムが選ばれる理由だと思います。

モナコは、資金さえあれば移住のハードルが低く、超富裕層に好まれる国です。ただし、訪れてみるとわかりますが本当に小さい国ですから、住んでみるとすぐに飽きが来ると思います。他のヨーロッパの国々もロングステイしつつ、拠点をモナコに置くという方が現実的かもしれません。

他にも、アジア圏ですとタイやマレーシアが人気です。特に老後の移住先として人気で、やはり物価が安いことや温暖な気候がその理由です。

ニッチな国ですと、ドミニカ共和国やギリシャなどもお問い合わせをいただくことがあります。また、お問い合わせはないもののサイトの閲覧数が多いのはスイスやオーストリアです。年収が10億円20億円以上ある人ですと、スイスへの移住を検討されても良いかもしれません。

――ビザはどうされているのでしょうか?

小林氏:弊社はゴールデンビザをおすすめしています。投資をして居住権を得るビザです。起業家ビザもありますが、現地で会社を設立して事業を興しても、その事業が成功するかどうかわからない賭けに出ることになります。もしも事業で失敗すると、その国に対してネガティブになってしまいますから、ゴールデンビザの方が良いと思います。しっかりした投資・資産運用であれば、事業のようにゼロになることはありません。

マルタ共和国への移住・永住権の取得

ポルトガルへの移住・永住権の取得

スペインへの移住・永住権取得

モナコへの移住・永住権取得

タイへの移住・永住権の取得

マレーシアへの移住・永住権の取得

ギリシャへの移住・永住権の取得

スイスへの移住・永住権の取得

オーストリアへの移住・永住権の取得

海外移住者の属性や年齢層

――お問い合わせが多いのは、どんな属性や年代の方ですか?

小林氏:会社や事業を売却して…という方からのお問い合わせを多くいただきます。いつ頃までにM&Aするので、まとまったお金が入ったら移住したいという下準備や下調べのお問い合わせですね。

また、リモートワークでできる方、特に経営層でリモートでも完結する方がお子様と配偶者の方は現地に移住し、ご本人も日本の非居住者となるもののときどき日本にも来るというようなスタイルの方もいらっしゃいます。

他にも、早期リタイアしての海外移住、お子様の教育のための海外移住、株や暗号資産などの投資で財を成した人などからのお問い合わせもいただいています。終活の一環で、贈与税・相続税対策のために海外移住したいという方も多く、移住して10年は税の徴収権が日本に残りますが、早いうちから準備をしたいという方もいらっしゃいますね。

年齢層としては、お子様の教育のための海外移住ですと40歳前後の方、相続対策のための海外移住ですと50~60代の方が多いですね。

――移住して10年というのはハードルが高く、ご本人やご家族のだれかが日本に帰りたくなってしまうケースも多いと思いますが、実際はどうなのでしょうか?

小林氏:一か国ですと確かに飽きてしまったり、食のバリエーションが日本ほど豊富ではなくて嫌になったり、何らかの理由で海外生活を辞めてしまうケースもあります。ただ、EU圏であればいろいろな国を転々と住むこともできます。制限はありますが、EUの居住権があればスムーズです。EUの各国をロングステイしながら暮らすというのは、とても優雅で国々の文化にも触れられて良いのではないでしょうか。

何事もポジティブに受け入れれば海外移住にハードルはない

――小林さんがご自身で海外生活を経験されたり、さまざまな人の海外移住をサポートする中でハードルと感じるのはどんなところですか?

小林氏:一番は、異文化に触れるハードルだと感じますね。日本人の多くは島国気質で、異なる文化に触れる機会が少ないように思います。そのため、移住した後に「こんなはずじゃなかった」となってしまう。異文化は異文化として、何でもポジティブに受け取るしかないと思います。異文化に触れた分だけ見識が広がり、それによってご自身やお子様の可能性が広がり、何事も良い経験になると捉えられれば、毎日が楽しくなります。

しかし、どんなに現地の生活に染まっても、日本人の良いアイデンティティを忘れないようにしていただきたいですね。ローカライズされ過ぎず、日本にない文化や考え方を吸収し、良いと感じたことはどんどん取り入れて自分のものにしていくと、究極はそれが世界平和の第一歩になると私は信じています。

例えば、なぜ昨今の戦争が起こるのか? そこには、日本人には到底理解できない背景があるわけです。文化的な背景、歴史的な背景、宗教的な背景…これらは当事者でないとわからない部分があります。異文化に触れるということは、文化や歴史、宗教に触れるということでもあります。相互理解がなければ、世界平和は訪れません。

日本人のアイデンティティを忘れないでほしいというのは、例えばワールドカップのときに日本人サポーターがゴミ拾いをしていたことが話題になりました。「日本って良いな、日本人って良いな」と思ってくれる人が世界中で増えれば、インバウンドも増えるかもしれないわけです。旅行で訪れたことがきっかけで、日本に移住する人や日本でビジネスをする人、日本に投資する人も増えるかもしれません。そんな連鎖が世界中で起こり、お互いの国のことを愛せるようになれば、ゴミ拾いという些細な行動一つでも、世界平和につながると思います。

――海外生活を長く続けるコツは、異文化にたくさん触れてすべてを受け入れることですね。

小林氏:そうですね。すべてを受け入れて、その地に根づいて暮らすことで、観光や短期滞在では気づけないことに気づけると思います。私は20代の前半はイタリアで暮らし、イタリア国内で引っ越しも経験しました。イタリアと言っても広いので、その土地土地で文化が異なります。また、その後はハワイでも生活したのですが、銃社会で行ってはいけない場所も徐々に理解できるようになり、リゾート地とは違うハワイの一面も見ることができました。世界各地に人脈もできますし、今もつながりのある友達もいて、いろいろな国や地域を巡ってみて良かったなと感じています。

移動した分だけ、自分の成長や調和につながっていると思います。日本の当たり前は世界の当たり前じゃないということを常々感じますし、外を知ることで日本の良さを再認識することもできます。

(後編に続きます…)

この記事を書いた人

WMJ編集部

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