2023年に役員を務めるアーリーワークスがNasdaq上場を果たし、企業オーナーにとってのNasdaq市場への道標として活動するキャンバス社会保険労務士法人の五味田匡功氏。五味田氏は、「グローバル展開を、日本企業のスタンダードにしたい」と話します。なぜ今、Nasdaq上場が注目されているのか。上場のハードルは、実際どうなのか。本稿では、五味田氏にNasdaq上場のホンネをお聞きしています。

インタビュイー:キャンバス社会保険労務士法人・五味田匡功氏

インタビュアー:ゴーストライター 中島宏明

日本市場とアメリカ市場の違い

――本日はありがとうございます。まずは、日本市場とアメリカ市場の違いについて教えてください。

五味田匡功氏(以下、五味田氏):アメリカ市場には、オールド企業が中心の「ニューヨーク証券取引所(NYSE)」と、テック企業が多い「Nasdaq」があります。NYSEには、日本を代表する企業も上場を果たしています。一方で、Nasdaqに上場している日本企業は未だ9社だけです。Nasdaqには、日本でもよく知られるGAFAMやテスラも上場しています。

画像:五味田匡功氏提供

日本市場とアメリカ市場の大きな違いは、なんと言ってもその規模の差でしょう。1社あたりの時価総額は、NYSEが東証の約3.5倍。Nasdaqは東証の約1.9倍です。1社あたりの売買代金は、NYSEが東証の約3.4倍。Nasdaqは東証の約2倍。時価総額の合計にいたっては、まさに桁違いです。アメリカ市場が、それだけ世界からお金が集まる市場であることを証明していますね。

画像:五味田匡功氏提供

2023年にNasdaqに上場したアーリーワークスは、SPACで上場しました。SPAC上場は、会社設立直後に上場するスキームで、事業を行っている非上場会社を合併(買収)する目的で設立します。その目的において、一般投資家から資金調達するものです。「空箱上場」とも呼ばれますが、日本以外の国では一般的なIPOの方法として広く知られています。

画像:五味田匡功氏提供
画像:五味田匡功氏提供

Nasdaq上場のメリット

――NasdaqにSPAC上場するメリットには、どんなことがあるのでしょうか?

五味田氏:①知名度/ブランド力 ②上場までの準備期間が短い ③監査基準、内部統制基準は免除 ④一定期間経過後、資金調達も実施できる ⑤ADR手数料が不要、海外からみて株式が購入しやすい という5つのメリットが挙げられます。

画像:五味田匡功氏提供

SPAC上場であっても、Nasdaq上場企業であることに変わりはありません。そのため、一スタートアップ企業では取引ができなかった大手企業との契約が可能になったり、会社の信用度が格段に上がります。

SPAC上場の他に、ADR上場という選択肢もあります。ADRは、外国企業の株式を裏付けにアメリカで発行された有価証券を上場させたものです。ADR上場のメリットには、①知名度/ブランド力 ②上場までの準備期間が短い ③売上12億3,500万ドル未満の企業は内部統制免除 ④資金調達が日本のグロース市場の3倍~10倍 ⑤日本の法律に合わせた会社運営が可能 という5つのメリットが挙げられます。

画像:五味田匡功氏提供

Nasdaq上場までのロードマップは、9ヶ月ほどです。日本の場合は上場準備期間を含めて3~4年ほどかかり、また上場基準はどんどん厳格になっていますから、3~4年で上場できれば万々歳でしょう。このスピード感も、Nasdaq上場の魅力のひとつです。

――なぜ上場のハードルが、日本とアメリカではこれほど違うのでしょうか?

五味田氏:考え方の違いですね。アメリカは、「とりあえず上場させる」という考え方です。それは、良い悪いではないと思います。短期間で上場できるのですが、一方で「短期間で上場廃止」もあり得ます。上場を維持することが難しく、廃止もシビアです。

――大学入試と同じですね。日本は「入るまでが大変。入ったら安泰」。アメリカは、「入るには入れるけど、入ってからが大変」ということですね。

画像:五味田匡功氏提供

Nasdaq上場後の課題とは

――Nasdaqに上場した後、感じている課題にはどんなことがありますか?

五味田氏:2023年にもNasdaqには複数の企業が上場を果たしていますが、上場してから株価は下がっており維持できていません。これは構造の問題で、アメリカの一般(個人)投資家はインデックスファンドが中心で個別株をあまり買わないのです。個別株に投資するのは、機関投資家です。そのため、機関投資家周りをしないと買いが発生しません。事業モデルも、アメリカの機関投資家にとって魅力的に見える内容にしなければいけません。また、アメリカ国内でしか株を買えないとなると海外送金が必要になり、日本人投資家にとってそれがハードルで買いにくいという問題もあります。

機関投資家ウケする事業モデルや企業であれば、資金調達は何度も可能です。日本のグロース市場の場合、1回だけ資金調達してその後は…という上場企業も多いわけですが、Nasdaqの場合は戦略次第では複数回の資金調達も可能になります。「Nasdaq上場企業」という響きはカッコいいのですが、やはり戦略・グローバル展開は必須で、IR担当をしっかりと置き、機関投資家周りをしてグローバル展開を進めていく必要があります。

(後編に続きます…)

この記事を書いた人

WMJ編集部

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