経済成長の背景には、必ず人口構造の力学があります。多くの国が経験してきた「人口ボーナス期」──生産年齢人口が増加し、経済が自然と成長する時期──は、国家の黄金期とも呼ばれてきました。しかし現在、この恩恵を受けられる国は限られてきています。もしも世界中の国がこの人口ボーナス期を終えたとしたら、私たちの経済や社会、国家戦略、そして富裕層の資産戦略はどのように変化していくのでしょうか。本コラムでは、人口構造の変化がもたらす未来を多角的に読み解き、次の時代に向けた思考のヒントをお届けします。

人口ボーナスの終焉が引き起こすグローバルな経済変化

人口ボーナスとは、生産年齢人口(15〜64歳)が総人口に占める割合が高まり、社会の「支える力」が「支えられる力」を上回る状態を指します。アジアの経済成長を牽引してきた中国やインド、そしてかつての日本はこの恩恵を享受してきました。

しかし、この状態が終わると、成長の「自然な推進力」が失われ、経済は鈍化します。労働力人口が減少すれば、生産性を飛躍的に高めない限り、GDPの成長は鈍化し続けます。また、高齢化が進むことで消費は保守的になり、企業の収益も伸び悩むようになります。

世界的に複数の国が同時に人口オーナス(逆ボーナス)に突入すると、「世界全体での需要拡大」が期待しにくくなります。市場を支えていた中間層の拡大が止まり、「全体が伸びる」という前提自体が崩れる可能性があるのです。

日本は「先行する未来」をどう経験しているのか?

日本は世界に先駆けて人口ボーナス期を終えた国です。1990年代以降、少子高齢化が加速し、長期的な経済停滞や労働力不足、年金・医療制度の持続可能性など、さまざまな課題に直面してきました。

しかし一方で、日本はこの構造変化のなかで多くの試行錯誤を重ねてきました。たとえば、高齢社会に対応した介護ロボットの導入や医療体制の効率化、デジタル化による業務改善、地方創生を目指した都市の再設計などが挙げられます。

こうした日本の取り組みは、今後人口オーナス期に入る国々にとっての「未来のシミュレーション」となるでしょう。言い換えれば、日本が抱える課題は、世界がこれから直面する課題でもあるのです。

中国・インド・アフリカの人口動態は恩恵かリスクか?

中国やインド、アフリカ諸国は、いわゆる「人口大国」として世界から大きな成長期待を集めてきました。しかし、それぞれの未来は一様ではありません。

中国はすでに出生率が低下し、人口減少フェーズに入りつつあります。都市化の限界や若者の未婚化、地方経済の停滞など、構造的な課題が浮上しています。インドは若年人口が豊富な一方で、教育や雇用のインフラが追いつかず、「人口ボーナス」が「人口爆弾」になりかねないリスクを抱えています。アフリカ諸国においても、人口増加が経済成長を支える一方で、貧困や政情不安が深刻化すれば、社会的混乱の引き金になる可能性があります。

人口の多さはあくまで「可能性」に過ぎません。制度や教育、統治が伴わなければ、その潜在力は発揮されません。富裕層の皆さまにとっても、これらの地域に投資や事業を展開する際には、人口動態だけでなく、その背後にある制度的・政治的リスクを慎重に見極める必要があります。

人口ボーナスなき時代における資産戦略

人口による成長が見込めない時代において、富裕層がとるべき資産戦略は大きく変化しています。これからは、「どこに投資すれば伸びるか」ではなく、「どこが壊れにくいか」「誰とつながるべきか」という視点が重要になってきます。

教育、医療、エネルギー、食料といった分野、そして信頼できるガバナンスを持つ地域は、今後ますます資本が集中する領域となるでしょう。また、都市インフラの持続性やデジタル技術を活用したリスク管理体制も、資産保全と資産成長のポイントです。

さらに、人口減少により公共サービスが立ち行かなくなる地域では、富裕層によるインパクト投資や地域共助への参画も重要になっていきます。資産家としてだけでなく、地域や社会の「共創者」としての役割が問われる時代になるでしょう。

次の成長の鍵は“人口”ではなく“知能”か?

人口に頼らずに成長を目指す時代において、次のキーワードは「知能」です。ここでいう知能とは、人工知能(AI)だけでなく、人間の教育や創造性、協働力など、広い意味での「人的資本」を含みます。

AIと人間が協働しながら労働生産性を高める社会、教育制度を根本から見直して次世代の知能を育てる仕組み、そして世界中から優秀な人材を引き寄せる移民政策など、国家戦略も大きく変わりつつあります。

もはや単純な人口増加では経済成長は望めません。代わりに「知をどう蓄積し、活用するか」が問われる時代に入っています。富裕層にとっても、こうした知能資本への投資が、将来的に最も確かなリターンをもたらす選択となるかもしれません。

この記事を書いた人

中島宏明

経営者のゴーストライター
(書籍、オウンドメディア、メルマガ、プレスリリース、社内報、スピーチ原稿、YouTubeシナリオ、論文…)
  
2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。2014年に一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

マイナビニュースで、投資・資産運用や新時代の働き方をテーマに連載中。